研究課題/領域番号 |
17H01120
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
白井 淳平 東北大学, ニュートリノ科学研究センター, 学術研究員 (90171032)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 2重ベータ崩壊 / カムランド禅 / 液体シンチレータ / キセノン |
研究実績の概要 |
ニュートリノのマヨラナ性の検証は、素粒子物理学および宇宙物理学の最重要課題の一つであり、現在唯一実現可能な検証手段であるニュートリノの放出を伴わない2重ベータ崩壊(0νββ崩壊)の探索が世界各地で発見を目指して進行中である。カムランド禅実験は2011年からキセノン同位体核(136Xe)を用いた高感度探索を行い、申請者が推進する基盤研究S(課題番号25220704)では世界最高感度を達成するとともに、更なる感度向上を目指し、検出器外水槽の再建による宇宙線背景事象の除去効率の向上とキセノンを倍増した新たな実験フェーズへの準備を進めてきた。本研究では、検出器の中核をなしキセノンを収納するクリーンかつ体積が2倍の新型ミニバルーンを製作導入し、探索感度の飛躍的向上と、0νββ崩壊発見によるニュートリノのマヨラナ性検証に世界に先駆けて迫ることを目指す。以下に本年度の成果について述べる。 本年度は本学スーパークリーンルームにて前年度に製作完了した新型ミニバルーンを神岡現地に搬入し、カムランド検出器に投入設置した。検出器に投入後の新型ミニバルーンをキセノンを含まない液体シンチレータで膨らませ、バルーンの状態についてモニターカメラや、データ解析による詳細なチェックを行った。異常がないことを確認した後、136Xe同位体核で濃縮した750kgのキセノンガスを溶解させた液体シンチレータ(Xe-LS)で液を入れ替え、新たなデータ採取を開始した。初期のラドン崩壊事象の解析による事象分布、ラドン以外の背景事象(ミニバルーン及びXe-LS由来のウラン、トリウム系列核の崩壊事象, 宇宙線ミュー粒子由来の背景事象, 136Xe核の2νββ崩壊事象の検出など)を入念に解析中である。データ採取及び解析は順調で高品質データによる新たな高感度探索に入ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度行ったスーパークリーンルームでのバルーン製作作業では数々の工夫(作業者のクリーンウェアと装備の大幅改善、超純水洗浄の徹底化、埃からのバルーン保護対策強化、半自動溶着機の導入、湿度制御装置導入など)を行い、ミニバルーンに接続する長さ6mのナイロン製コルゲート管も製作と装着時のクリーン化を徹底した。これにより本年度は、最終段階である検出器へのミニバルーン投入作業、キセノンなしの液体シンチレータ導入によるバルーンの状態、特にリークのチェックを行った。それは定点モニターカメラ、12本のバルーン吊り紐の重量、バルーン内外のラドンとキセノン分析、液体シンチレータ成分の分析、背景事象によるバルーン形状などによる入念なチェックである。その結果リークは見つからなかったが、液体シンチレータ中のトリウム系列の背景事象が予想より多いことが判明し蒸留による液体シンチレータの純化と置換を3体積分行いこれを除去した。そしてキセノン含有液体シンチレータへの液置換を行い0νββ崩壊探索の新たなデータ採取を開始した。採取したデータの解析は進行中であるが、背景事象が前回探索時に比べて大幅に減少したことが確認された。現在高感度探索が進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在進行中の高品質データの採取を引き続き行い、蓄積データの解析を行い背景事象のさらなる研究を進める。特に宇宙線ミュー粒子との反応でできる10C原子核の崩壊による背景事象やトリウム系列核の崩壊による背景事象の除去をはじめ、感度の最適化のための解析手法の工夫などを行う。カムランド禅実験は0νββ探索で現在世界最高感度を維持しているが、本研究により探索感度の飛躍的な向上が期待される。得られた結果は学術会議等で発表する。
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