研究課題/領域番号 |
17H01125
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
片山 伸彦 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (50290854)
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研究分担者 |
寺尾 悠 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (00777823)
大崎 博之 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (10203754)
菅井 肇 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任准教授 (50291422)
金子 大輔 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任研究員 (60790342)
松村 知岳 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任准教授 (70625003)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 宇宙マイクロ波背景放射 |
研究実績の概要 |
宇宙初期の急激な加速膨張を予言するインフレーション仮説は、宇宙開闢後10**-38秒、またエネルギースケールで10**16GeVという極限の物理現象にもかかわらず、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の偏光観測により実験的な検証が可能である。現在、B-modeと呼ばれるこの偏光シグナルの発見に向け世界的に熾烈な競争がある。日本では将来衛星計画LiteBIRD、またチリの地上望遠鏡POLARBEARの計画が進められている。本研究提案では、CMB偏光観測において検出器の1/fノイズや系統誤差の要求を劇的に軽減する偏光変調器の開発を行う。本研究の計画は以下の通りである。 (1) インフレーション信号強度から観測機器の統計及び系統誤差までの応答関数を導出するため、シミュレーションパイプラインを構築する。 (2) 変調をかける光学素子はミリ波の広い観測帯域にて高い透過率及び変調効率が求められる。サファイアを用いて広帯域半波長板を実機サイズにて開発する。この半波長板は液体ヘリウム温度下で連続回転する必要があり、高温超伝導体を用いた浮上式磁気軸受を採用する。回転機構に半波長板を搭載した実証器にて低温下での偏光特性、熱的成立性を実験にて検証し、実現性評価を行う。 (1) については、2018年12月までに系統誤差を推定し、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所においてLiteBIRDチームが進めている、pre-phase A2(概念検討におけるミッション定義段階)における概念検討報告書として纏めた(内部文書なので公表できず。) (2) については、大型の高温超伝導体を用いた浮上式磁気軸受と回転機構を製作し5Kにおいて発熱を測定し、シミュレーション等を行い解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の技術的チャレンジ及び解決すべき問題は、以下の通りである。(1) CMB観測帯域(50GHz~350GHz)で高変調効率を実現する多層波長板を用いた広帯域半波長板の製作及び評価、(2) 半波長板を10K以下に保ちつつ実現する連続回転機構(駆動系、軸受)の開発、(3) 半波長板の放射率を低減する広帯域反射防止膜の開発、(4) 上記を統合した変調器の性能評価(光学、熱、回転特性)と校正方法の確立。 (1) については望遠鏡の構成の変化による、観測帯域の変更もあり、シミュレーションを行って最適化し、学会で発表した。また実際にサファイアを9層重ね合わせた広帯域の半波長板を製作し、透過率や変調効率の測定を行い発表した。(2)に関しては、多摩川精機株式会社に駆動機構を、信越化学工業株式会社に軸受を製作してもらい、カブリ数物連携宇宙研究機構にある大型クライオスタット内で低温試験環境を作り回転の安定性、発熱等の測定を行った。これらに関しては国際学会等で発表した。(3)に関しては本機構の所有するナノ秒レーザーを用いてサンプルを製作し、透過率を測定した。また東京大学理学系研究科の五神湯本研と共同研究を行い、フェムト秒レーザーを使用してサンプルを製作し、透過率を測定した。またシミュレーションを行い、片面のサンプルの測定結果がシミュレーションとよく一致することを示し、その結果を用いて、両面広帯域反射防止膜(構造)を製作した場合の透過率を推定した。これらの結果は学会等で発表した。(4)に関して、本研究外の課題も含む課題の解決に時間がかかり、総合的な性能評価には至っていない。例えば、低周波用望遠鏡の光学系が最終的に決まっていない為、望遠鏡の視野が決定されておらず、物理光学によるシミュレーションが終わっておらず、半波長板の直径が決まっていなかった。
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今後の研究の推進方策 |
繰り越した研究費を使って、もう一台実機サイズの試作機を作成し、熱、光学、回転特性を含む総合試験を行う予定である。 反射防止膜加工については、現在複数のレーザーを用いてレーザー加工のパラメータ(出力、周波数、加工パターン等)を調整し、加工速度の向上を実施中だが、出来る限り早い時期に実機サイズのサファイアに対する加工を行う。 偏光変調効率については、現在系統誤差の抑制および軽量化を目指した設計の最適化をシミュレーションにて実施し、5層の解を導出し、現在成立性を検討している。出来る限り早い時期に実機サイズのサファイアを入手して5層半波長板の特性が測定出来る様にする。 極低温連続回転機構については、現在サマリウムコバルト磁石とヨークを使ったリング型磁気回路の製造を進めており、2018年3月に納品された(信越化学)。この新しい磁石を用いた液体窒素温度環境での動作試験を行っている。この測定結果と、シミュレーションの結果を合わせて、回転子の永久磁石の磁場の一様性に対する要求を決定し、再度リング型磁気回路を製造し、総合試験に臨む。
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