研究課題
2017年に実施した高バースト耐性MWPCの読み出し回路改造とガス構成最適化に加えて、バースト後に発生する遅延雑音を抑えるため、さらなるガス構成の最適化を行なった。イオンの荷電交換を促進するガス(R-134aなど)を加えることによって、遅延雑音を大幅に低減できることがわかった。J-PARC MLF D2エリアに、電磁石とこれまでの改良を施して高度化した飛跡検出器を設置して、2017年と同じ手法によるミューオニック炭素原子からのDecay-in-Orbit (DIO)のスペクトル測定を実施した。検出効率の大幅な改善などもあって、2017年に取得したミューオニック炭素原子DIOデータの統計を8倍ほど改善することができた。現在、鋭意解析中である。また、本MWPCを長期間保管中に、センスワイヤーが破断してしまう事象に遭遇した。MWPC製造元との共同調査の結果、ワイヤーとフレームの熱膨張係数に違いがあることなどから、室温が急激に変化した場合にワイヤー張力が増加することがわかった。これがワイヤー破断の直接的な原因と断定するには至らなかったが、本作MWPC4台全てに対して、センスワイヤーの張力を下げる改造を行った。本MWPCは、高速でガスゲインのダイナミックな調整を実現するために、ワイヤーの晒される力学的な環境は大変に厳しい。物理測定への悪影響を防ぐために、ワイヤー破断事象への対策をさらに高度化する必要が認識された。ミューオン・電子転換過程探索測定では、電子スペクトロメータの運動量を正確に校正する必要がある。そこで、Hライン中間部に校正用試料ホルダーを設置し、正ミューオンやパイオンが発生する運動量のわかった陽電子を用いて電子スペクトロメータの校正を行う方法を開発した。Hラインに実装するための校正用試料ホルダーの製造も行った。
3: やや遅れている
物理測定に使用するビームライン(Hライン)の完成が遅れているために、ミューオン・電子転換過程の測定には着手できていない。物理測定に使用する検出システムの基本的な開発は完了している。読み出し回路の改造やガスの最適化行なった。遅延雑音も、R-134aなどのガスを混合することによって抑制できることがわかった。R-134aの代わりにメチラールガスなどを混合する方法を検討しているが、これらはより高い品質で物理データを収集するための高度化作業である。物理測定の開始に向けて、電子スペクトロメータ運動量を校正するための機器の開発整備を進めている。また、ビームラインが完成し次第ビームコミッショニングを効率的に実施するため、パルスビームでの使用に最適化されたビームプロファイルモニターの開発も行っている。このように、一旦ビームラインが完成すれば、効率的に物理測定を実施できるように準備を進めている。
ビームラインが完成し次第、効率的に物理測定を遂行して成果を創出できるように、以下に示すような準備を進める。1) 一般的には、物理測定データをフィードバックしながら検出器の高度化をはかることができれば、改良するべき部分も明確になるので効率的である。しかしながらその方法では時間がかかるので、ビームライン完成を待たずに可能な限り検出器を高度化して、短期間で効率的に物理測定を実施できるように備える。2) J-PARC MLF で使用するパルスビームの特性に合わせた新型のビームプロファイルモニタを開発し、効率的なビームコミッショニングに備える。3) DIOデータ解析の高度化を推し進め、ミューオン・電子転換過程データの解析に必要な時間の短縮をはかる。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
Progress of Theoretical Experimental Physics
巻: 2018 ページ: 113G01
10.1093/ptep/pty116
A proceedings of CIPANP2018
巻: CIPANP2018 ページ: 1809.10314
http://deeme.phys.sci.osaka-u.ac.jp