研究課題/領域番号 |
17H01131
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
郡 和範 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (50565819)
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研究分担者 |
久徳 浩太郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (30757125)
川崎 雅裕 東京大学, 宇宙線研究所, 教授 (50202031)
高橋 龍一 弘前大学, 理工学研究科, 助教 (60413960)
高橋 智 佐賀大学, 理工学部, 准教授 (60432960)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 21cm線 / ニュートリノ / 重力波 / バリオン数 / 大規模構造 / インフレーション / 前傾放射除去 / SKA |
研究実績の概要 |
郡は,原始ブラックホールを作るための種となる,インフレーションなどにより生成された可能性のある小スケールでの大きな曲率ゆらぎが2次的につくる背景重力波を調べた.将来のSKAによるパルサータイミングの観測により,そうした小スケールでの曲率ゆらぎが制限できる可能性を指摘した.高橋(智)は,EDGESによる21cm線グローバルシグナルの観測から初期密度揺らぎパワースペクトルのランニングに対してどのような制限が得られるか解析を行い,21cm線グローバルシグナルが初期密度揺らぎの検証にも有用であることを示した. 高橋(龍)は,宇宙密度ゆらぎのバイスペクトルの共分散行列を,多数(4千個)のN体数値シミュレーションを用いて求めた.川崎は,宇宙初期に大きなバリオン等曲率密度揺らぎが存在すると揺らぎの2次の効果によって重水素の存在比が変わることに着目して,最新の精密な観測を用いて幅広い波数の揺らぎの大きさに対して制限が得られることを明らかにした.久徳は,2017年に発見された連星中性子星合体からの多粒子放射の理論解釈を進めた.キロノヴァAT 2017gfoの偏光が小さかったことが理論モデルと整合的であることをシミュレーションで確認し,さらに今後偏光が検出される場合もありうることを示した.高橋(慶)は,ライマンアルファ銀河やマイクロ波宇宙背景放射と21cm線との相互相関により,前景放射の影響を軽減する手法を開拓した.前者については数値シミュレーションのデータを使って観測誤差の評価や前景放射の影響を調べ,現行の電波望遠鏡MWAや将来計画であるSKAでの観測可能性を議論した.また,後者についてはMWAとPlanckの実際の観測データを用いて相互相関に上限を与えた.また,EDGESのグローバルシグナルの観測データを使った原始揺らぎのパワースペクトルへの制限を評価した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々のメンバーは,頻繁に様々な研究会に出席するなどして,お互いに会った際にメンバー間での議論を活発に行ってきた.例えば,私が2019年3月20日にKEKつくばで主催したメンバー間の情報共有を目的とした研究会「宇宙論的21cm線」では,最新の宇宙論的21cm線の理論と観測の情報交換が行われた.こうした活発な議論がお互いを刺激し,バラエティー豊かな研究が行われ,多数の査読付き投稿論文を生み出したと理解している.そのため,当初の計画以上に進展した結果となった.
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今後の研究の推進方策 |
郡は,将来の21cm線観測を用いて,対消滅するダークマターや,超巨大ブラックホールをつくる過程でバリオン物質の降着に起因する21cm線放射の検出可能性を検討する.高橋(智)は,引き続き,21cm線グロバールシグナルから宇宙論のどのような側面が探れるか検討する.さらに,21cm線の揺らぎの情報も用いた際,グローバルシグナルとどのような相補性があるかついても研究を進める.高橋(龍) は,宇宙の小スケールの密度ゆらぎの様子をN体シミュレーションから求め,暗黒物質の対消滅量の評価に用いる.この際,バリオン物理の影響も考慮した銀河形成シミュレーションを用いる.N体計算を用いて,幅広いの宇宙モデルや赤方偏移に使えるバイスベクトルのフィッティング関数を作成する.川崎は,大きな短波長曲率揺らぎから生成される原始ブラックホールに関して,ブラックホールの質量分布を調べ重力波観測や宇宙背景放射等の観測から曲率揺らぎやその背後にある素粒子モデルに対する知見を得る.久徳は,今後発見されるであろうブラックホール・中性子星連星合体からの多粒子放射を,特に質量が同程度の連星中性子星との識別可能性に着目して理論的に精緻化する.また,重力波を用いた今後の基礎物理探査を21cm線など他の観測との協同にも着目して検討する.高橋(慶)は,引き続き,宇宙再電離21cm線に関してMWAとの共同研究を進める.そのために大学院生をメルボルン大学に派遣して観測データの取得やデータ解析の習得を図るとともに,相互相関解析のためのソフトウェアを開発する.MWA phase 2データとすばるHSCのライマンアルファ銀河サーベイのデータを用いて,それらの相互相関を解析し,上限をつけることを目標とする.また,MWAデータの自己相関についてはパワースペクトルだけでなくバイスペクトルや1点関数など,多様な統計量についての解析を行う.
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