研究課題
金、ウラン等の重元素を合成する速い中性子捕獲過程の起源となる天体環境の解明を目指し、中性子数N=126の安定閉殻の精密ベータ崩壊核分光実験を行った。多核子移行反応で生成された195-198Os同位体および185-187Ta同位体を、新たに開発した高速かつ高効率で分離・収集可能な単一原子核ビーム生成用ドーナツ型ガスセルで捕集し、これまでの10倍以上の効率でレーザーイオン化して引き出すことに成功した。高効率かつ低バックグラウンドな2次元位置感応型比例係数管32本からなるベータ線検出器と4台のスーパークローバーGe検出器を用いて、詳細なベータ遅発ガンマ線核分光を行い、新たに198Osのベータ崩壊寿命測定に成功、また195,197Osに長寿命な準安定状態を発見した。2018年度末には、下記の新規開発した装置を使って、核分光実験を行う予定である。開発項目1:レーザー核分光装置の開発。レーザー核分光による電磁モーメントと荷電半径測定(親核の波動関数および核構造に関与するデータ)を行い、系統的かつ多角的に核構造研究を展開する。そのために分光用レーザーシステム、指向性の良いガスジェットを生成するラバールノズル、S 型高周波イオンガイド(ガスジェット内イオン化のためS 型に湾曲)を開発し、導入した。開発項目2:3次元位置感応型ベータ線検出器の開発。現有の2次元位置感応型比例係数管を3次元位置感応型に改良して、バックグランドレートを下げることにより、より中性子過剰核の寿命測定を可能にする。試作機を製作し、アノード線の材質・太さの最適化を行い、必要な位置分解能2mmを達成できた。開発項目3:寿命・質量測定用ビーム偏向電極の開発。寿命測定中に、不安定核ビームを効率良く利用するために、ビーム偏向電極を導入して、原子核質量を測定可能な環境を整えた。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は、多核子移行反応で生成した195-198Os同位体・185-187Ta同位体を、新たに開発した高速かつ高効率で分離・収集可能な単一原子核ビーム生成用ドーナツ型ガスセルで捕集し、これまでの10倍以上の効率でレーザーイオン化して引き出すことに成功した。新たに開発した高効率かつ低バックグラウンドな2次元位置感応型比例係数管32本からなるベータ線検出器と4台のスーパークローバーGe検出器を用いて、詳細なベータ遅発ガンマ線核分光を行い、新たに198Osのベータ崩壊寿命測定に成功、また195,197Osに長寿命な準安定状態を発見した。高分解能レーザー核分光による電磁モーメントと荷電半径測定を行うための分光用レーザーシステム、指向性の良いガスジェットを生成するラバールノズル、S 型高周波イオンガイド(ガスジェット内イオン化のためS 型に湾曲)を予定通りに開発・導入し性能を評価した。今年度は、最適な測定条件を見出すべく改良を進めていく。希少反応生成物のベータ崩壊寿命を測定するために不可欠な低バックグランドレートのベータ線検出器として3次元位置感応型比例計数管の開発に着手した。アノード線を高抵抗の炭素線に置き換え、ベータ線の検出位置を2mmの精度で測定することで、これまでよりも一桁少ないバックグラウンドレート0.01cpsを達成できる。試作機を製作し、検出位置分解能2mmを達成できた。今年度初旬に64チャンネル分の実機を製作する。これより新たに10種類程度の核種の寿命測定が可能となる。寿命・質量測定用ビーム偏向電極およびビームラインの開発を行い、オフライン試験でビームラインの性能試験を実施し、予定の性能を確認した。今年度は多重反射型飛行時間質量測定器を整備して、原子核質量測定を開始する。このように未知中性子過剰核の多角的な核分光測定に向けた開発及び準備は着々と進んでいる。
高分解能レーザー核分光による電磁モーメントと荷電半径測定を行い、系統的かつ多角的に核構造研究を展開する。昨年度に開発・導入した分光用レーザーシステム一式を用いて、オフライン試験で白金の安定同位体を使って、最適なレーザー輸送経路の確立、ガスジェットの形状、イオン化分光法の条件を見出す。その後、後期に加速器実験で生成した不安定核197Ptの高分解能レーザーイオン化核分光を実施、磁気モーメントを測定する。昨年度に開発した3次元位置感応型ベータ線検出器の試作機を用いて、アノード線の材質・太さの最適化を行い、必要な位置分解能2mmを達成できた。本年度は、64チャンネル分の前置増幅器および波形整形増幅器を構築し、低バックグラウンド0.01cpsをオフライン試験で実現する。後期に加速器実験で生成した不安定核199Ptから放出されるベータ線で、検出器の性能を確認する。この検出器の導入により新たに10種類程度の核種の寿命測定が可能となる。寿命・質量測定用ビーム偏向電極およびビームラインの性能を確認できたので、今年度は多重反射型飛行時間質量測定器を整備して、原子核質量測定を開始する。不純物分子解離によるアルゴンガスセルの引き出し効率向上を目指して、今年度はアルゴンガスセルに高周波を導入するための電極を設計し、オフライン試験で電極形状および高周波電力の最適化を行い、不純物分子の解離を実現し、不安定核199Ptの引き出し効率向上を目指す。上記の開発により、今年度は未知中性子過剰核Pt同位体のレーザーイオン化核分光、寿命、質量測定を行う。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 9件、 招待講演 8件) 備考 (1件)
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