研究課題/領域番号 |
17H01135
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
都丸 隆行 国立天文台, 重力波プロジェクト, 教授 (80391712)
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研究分担者 |
森脇 喜紀 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (90270470)
鈴木 敏一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局等, ダイヤモンドフェロー (20162977)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 重力波 / キャリブレーション |
研究実績の概要 |
本研究では、米国のLIGO Hanfordおよび台湾中央大学のキャリブレーショングループと協力しつつ、レーザー輻射圧式重力波信号キャリブレータPCALを開発し、日本のKAGRAに導入して重力波信号のキャリブレーションを実施することを目指している。H30年度までにPCALの基本的な開発は終了し、KAGRAへの導入を果たした。 本年度はKAGRAの両 end stationへ導入したPCAL(それぞれX-PCAL, Y-PCALと呼ぶ)の運転を開始し、PCALのnoiseおよびsystematic errorの確認、KAGRA主干渉計へのインジェクションなど、基本性能評価を中心に研究を実施した。まず、X-PCAL, Y-PCALそれぞれのノイズ評価を実施し、基本的な要求値を満たすことを確認した。残念ながら試運転の最中にY-PCALの強度変調器が故障してしまい、当面はX-PCALのみでの運転を目指すこととなった。X-PCALについては12月に行われたKAGRAのEngineering Runで本格的な運用をスタートさせた。この際には、X-end鏡にX-PCALからレーザーを照射、31.3Hz, 89.3Hz, 30.7Hz, 88.7Hzの4周波数にcalibration信号を注入したが、この時点で10^-15 m/rHz程度の感度しかなかったKAGRAにおいてもcalibration 信号を観測する事に成功した。これはLIGOのPCALに比べて10倍の20Wレーザーを導入するなどのアップグレードが成功したことの査証である。また、PCALで注入したCalibration信号の周波数依存性が1/f^2に従っていることも確認できた。 また、富山大に構築途中であった光検出器の較正装置は、レーザーの修理が完了して再立ち上げを実施した。これにより積分球型光検出器の較正ができるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の進捗は、概ね順調に進展していると言える。PCALのハードウェア開発は予定通り2年で完了し、KAGRAサイトへのインストールも完了した。研究実績の概要に記したとおり、本年度はKAGRAサイトに置いてPCALの基本性能試験を実施しており、Engineering Runでの運転と評価も実施できている。これらは基本的な研究スケジュールと矛盾無いものである。レーザーの故障により一時的に中断していた富山大の積分球型光検出器較正装置も再稼働させることができ、米国LIGOで較正した積分球を基準にKAGRAのX-PCALで使用している積分球型光検出器を較正する作業も実施出来た。想定外であったのは、Y-PCALの強度変調器AOMが故障し、O3(重力波国際観測網での3rd Observation)には間に合わなくなってしまったことである。しかし、新しいAOMは再調達済みであり、O3終了後にY-PCALの修理を実施する予定である。 KAGRA全体の干渉計コミッショニング作業に時間を要している関係で、PCALの本格運用や重力波信号(干渉系信号)のキャリブレーションはやや遅れ気味であるが、本年度の目標は達成出来ている。
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今後の研究の推進方策 |
現時点におけるネックの1つは、KAGRA本体の感度向上が苦戦している点であり、このためにPCALを用いたキャリブレーション信号の精度を検証する時間が十分取れていない。特に、コロナウィルス問題でKAGRA施設もほぼ運用を停止している状態に至っており、今後のスケジュールの見通しが立たず、本研究で必要なPCALの精度評価等も再開の目処がたっていない。おそらくKAGRAプロジェクト全体のスケジュールが数ヶ月遅れ、本研究にも影響を及ぼすと推測している。 コロナウィルス問題の収束後、速やかかつ効率よくPCALの評価が実施できるよう、2020年4月に行われたKAGRAの観測運転でのcalibration精度評価などを進めており、また、故障したY-PCALの修理プランを策定するなどを進めている。今後O3観測が再開されるかは現時点で未定であり、再開されればX-PCALを用いて実データの較正を実施し、O3が再開されずO4に向けた改修を実施する場合には速やかにY-PCALの修理とノイズハンティングを実施する予定である。 また、富山大に構築した積分球型光検出器の評価システムでは、検出器性能の経年変化などをモニターするにはまだ至っていないため、実験が再開できるようになったところで速やかにこれを実施する。特に積分球の較正ではLIGOとの連携を密にする。 このようにスケジュール的に不透明な部分は拭えないが、O4において十分な精度で重力波信号のキャリブレーションを達成出来るよう、KAGRAサイトでのPCAL運用と評価を継続していく予定である。
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