研究課題
本研究の最終目的は、国際共同研究計画GAPS(General Anti-Particle Spectrometer)を実現し、宇宙線反粒子の高感度観測によるダークマター探索を推進することである。ダークマターの解明は現在の宇宙物理学の最重要課題の一つである。未発見の宇宙線反粒子である反重陽子は、超対称性粒子ニュートラリーノなどのダークマター有力候補の対消滅などを起源として存在する可能性があり、しかも低エネルギー領域にて二次起源成分(既知の物理学起源)の影響を殆ど受けずに単独で観測できる可能性がある。GAPSは、その反重陽子をかつてない高感度で探索・観測することを計画している。これによりGAPSは、ダークマターの多角的な研究において他実験とは相補的かつ独自の一翼を担うことができる。2020年度は、それまでの研究成果を踏まえ、南極周回気球飛翔観測に向けたGAPS測定器の開発を進めた。GAPS測定器の中核を担うリチウムドリフト型シリコン(Si(Li))検出器に関しては、前年度に推進した実機の量産製作を完了し、製作した検出器の基本特性評価も完了したうえで、米国の研究協力機関にてモジュール化の作業を進めた。また、GEANTを用いた数値シミュレーションコードの開発も進め、測定器全体や各サブシステムの詳細設計の最適化やデータ解析アルゴリズムの構築検討を進めた。Si(Li)検出器の冷却のためにOHP(自励振動ヒートパイプ)という先進的な熱工学技術を独自に発展させて開発している冷却システムに関しては、実機検出器アレイのスケールモデルを開発し、実運用法の検討やフライト前の地上での冷却方法の開発を進めた。得られた成果は学会や学術論文で順次発表した。
3: やや遅れている
本研究で開発した検出器の試験を2020年度に米国で実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染の予期せぬ拡大と長期化により米国の機関閉鎖や米国への渡航制限が続いたため、計画を見直しを余儀なくされた。ただし、2021年に繰り越したうえで2021年度に完了している。そのほかの研究計画に関しては、Si(Li)検出器実機の量産の完了、GEANTシミュレーションコード開発、冷却システムの実用的試験などを計画通りに実施完了するという成果を挙げている。
2020年度までの研究成果を踏まえ、GAPS実験実施に向けた研究開発を引き続き推進する。とりわけ、検出器アレイや冷却システムなどGAPS実機の開発製作を進める。また、実験実施後の観測データ解析を見据え、より実践的な粒子識別手法の開発も進める。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Journal of Cosmology and Astroparticle Physics
巻: 2020 ページ: 035_0~39
10.1088/1475-7516/2020/08/035
TRANSACTIONS OF THE JAPAN SOCIETY FOR AERONAUTICAL AND SPACE SCIENCES, AEROSPACE TECHNOLOGY JAPAN
巻: 18 ページ: 44~50
10.2322/tastj.18.44
https://gaps.isas.jaxa.jp/