研究課題
昨年度発信した二次元ハニカム格子化合物H3LiIr2O6における量子スピン液体状態の発見を発展させ、スピン液体発現機構やエキゾチック励起を明らかにすべく努力した。D同位体効果の実験によって、磁気相互作用に対する巨大同位体効果を見出した。これに対してNMR観測結果によると量子スピン液体状態はD体でも存在する。理論的にはKitaevスピン液体状態が極めて限られた磁気相互作用パラメータ空間でしか存在しえないことから、この結果は液体状態出現に他の必須要素が存在することを示唆する。更なる発展形としてD同位体とIr同位体を組み合わせた試料を作製した。同位体試料では中性子の吸収を抑えられ、中性子構造解析や非弾性散乱が可能となった。ごく最近の中性子構造解析の結果はLiIr2O6ハニカム面間のDがの上下の酸素の中心位置でなく、上下どちらかの酸素とOD結合を構築していることが明らかになりつつある。OD結合はIr間の超交換相互作用に大きな影響与える。OD結合とOH結合では、その量子性により結合状態が大きく異なることが予想される。このことが巨大同位体効果の起源であると推論した。さらにOD結合は上下の酸素に対してランダム分布しており、磁気結合の乱れが容易に推測される。このような磁気結合の乱れがスピン液体状態を安定化させる要因であると提案したい。ハイパーハニカム構造Li2IrO3の圧力下での磁気秩序消失を高圧NMR、磁化測定、構造解析により詳細に調べた。その結果、3-4GPaの高圧下でジグザク鎖上に強い結合を有するIr二量体が形成され、非磁性スピン一重項状態が出現することが明らかとなった。この非磁性スピン一重項状態は圧力低下とともに抑制され、1-2GPaで長距離秩序と競合する。競合領域では不均一な非磁性状態が実現し、これが単なる乱れた二量体グラス状態なのか、ある種のスピン液体状態なのか興味が持たれる。
2: おおむね順調に進展している
昨年度は量子スピン液体を発見したので、比較するとそれより高い自己評価を下すことは困難である。しかしながら、巨大同位体効果の発見は予想外の発見であり、OD結合とそれに伴う乱れの発見とあわせて、十分に満足できる結果が得られたと自負する。すでに国内外の理論グループが量子化学計算などをスタートし、プロトンの量子効果などに興味が集まっている。ハイパーハニカムの相競合は量子スピン液体のとのつながりが今の時点で明確ではないが、強電子相関とスピン軌道相互作用の競合/競争の典型例として、学術的な価値は高いと考える。なお、一連の進展をレビューとして、Nature Reviews Physics誌に執筆し、そのインパクトを広く発信した。
重水素置換したD3LiIr2O6の同位体効果の研究をさらに発展させ、量子液体発現の機構にさらに踏み込みたい。中性子による構造解析は予備的なものなので、PDF解析など追加して、結果をポリッシュアップし、量子化学計算の結果など連携しながら、浮かび上がってきた水素/重水素の役割をつめて行きたい。3次元ハニカム格子β-Li2IrO3については、圧力下におけるスピン一重項ダイマー状態とJeff=1/2スパイラル磁性相の競合の全貌が磁化測定とNMR測定を通じて、ほぼ解明できたので、これをまとめ、磁場誘起の磁気秩序の融解と臨界点での素励起の検出に注力する。d4のJ=0モット状態については候補物質であるAg3LiRu2O6(H3LiIr2O6と同じ構造)について、J=0モット状態の検証をさらに進めるとともに、圧力下での磁化、NMR測定によってエキシトニック磁性(特にスピン液体)の可能性を探る。格子ひずみがなく完全な八面体の対称性を保つK2RuCl6について同様の検証を進めると同時に、比較によってAg3LiRu2O6における結晶場分裂の効果を明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 15件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 12件、 招待講演 12件) 備考 (1件)
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