今後の研究の推進方策 |
α-RuCl3はKitaev模型のモデル物質として世界的な規模で研究が進んでいるが,その相互作用パラメーターの詳細はまだ分かっていない。相互作用パラメーターの決定には,低エネルギーのスピン波励起の分散関係を知る必要がある。この物質のこれまでの中性子散乱による磁気励起の研究は,主に高エネルギー領域と高温領域が中心であった。そこで,次年度以降は,α-RuCl3の純良単結晶を用いて,低エネルギー励起を広い逆格子空間で詳細に調べ,スピン波励起の分散関係を求め,その解析からα-RuCl3における相互作用パラメーターの決定を行う。これまでの結晶育成法の改良で200~400 mgの純良単結晶が得られている。J-PARCに設置された中性子分光器は非常に高い性能を有するので,質の高いデータが得られると考えられる。 Kitaev模型に等方的なHeisenberg項が加わったKitaev-Heisenberg模型の場合には,三角格子系などのフラストレート系でZ2 vortex結晶と呼ばれる不整合スピン構造が現れることが理論的に予言されている。これは新しい起源の不整合スピン構造であるので,その実験的発見は重要な意味を持つ。そこで,Ru3+を磁性イオンとする磁性体を開拓し,Z2 vortex結晶の発見を目指す。 我々は新たな三角格子量子反強磁性体や1次元量子スピン系の候補物質として,化学式A4MB2X12 (A=Cs, Rb, M=Cu, Ni, Co, Fe, Mn, V, X=Cl, Br)で表される物質の合成を試みている。いくつかの系では単結晶が得られている。今後はX線回折による結晶構造の詳細な決定を行い,磁気測定,比熱測定,中性子散乱,ESRによって,総合的な磁性研究に着手する計画である。この系は新しい量子磁性体のファミリーとして,量子磁性の理解に大きく貢献することが期待される。
|