令和2年度は,以下のテーマに関して論文公表に至る成果を上げた。 (1)磁気四極子秩序を示す反強磁性体Pb(TiO)Cu4(PO4)4を対象として,可視光領域における線二色性を観測し,また,その線二色性の符号が光の進行方向を反転すると線二色性の符号も反転する,すなわち「非相反線二色性」が発現することを見出した。この線二色性による吸収係数の相対的変化は約4%と大きく,さらに磁気四極子の符号を反転することによっても線二色性の符号が反転することを明らかにした。この現象を利用して,磁気四極子ドメインの空間分布を偏光顕微鏡により可視化することに成功した。 (2)新たなフェロイック物性の候補として, 結晶構造に内在する原子配置の回転歪みで特徴づけられる秩序「フェロアキシャル秩序」に着目した。本研究では,電場変調イメージング技術を応用した電気旋光効果測定および走査型透過電子顕微鏡と収束電子回折を組み合わせた測定により,フェロアキシャル秩序を示すNiTiO3におけるフェロアキシャルドメインを可視化することに成功した。光学的手法によるフェロアキシャルドメインの観測はこれまで例のないことである。 (3)強磁性と強誘電性が共存するコニカルらせん磁性体Mn2GeO4において、電場の印加によって強磁性ヒステリシス曲線における保持力が変調を受けるという「電場誘起交換バイアス効果」ともいうべき特異な電気磁気結合現象を見出した。これは同物質における磁化と電気分極という秩序変数のカップリングによって引き起こされると理解される。 他にも室温電気磁気効果物質BaSrCo2Fe11AlO22多結晶試料におけるグレイン配向制御による電気磁気特性の向上,「フェロカイラル秩序」形成に関する新たな機構提案などの成果を挙げた。これらの研究成果は,論文での公表に加えて,研究代表者による国際会議での招待講演や研究協力者などによる国内外の学会・研究会などで発表した。
|