研究課題/領域番号 |
17H01144
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
宇治 進也 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 副拠点長 (80344430)
|
研究分担者 |
寺嶋 太一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主席研究員 (40343834)
圷 広樹 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (80316033)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 有機超伝導 / 強磁場 / 低温 / FFLO相 |
研究実績の概要 |
beta”-(ET)4[(H3O)M(C2O4)3]G M=Ga, G=C6H5NO2の純良結晶の開発も引き続き行っていたが、2019年度はKosterlitz-Thouless (KT)超伝導体と期待されるbeta”-(ET)2[(H2O)(NH4)2M(C2O4)3]18-crown-6 (M=Rh, Cr, Ir, Ru) の結晶作成や超伝導の性質の解明研究を中心に行った。連携研究者である英国Nottingham Trent UniversityのLee Martin上級講師グループが作成し送って来た結晶、および阪大において作成した結晶の超伝導性をSQUID磁束計を用いて確認し、良質のものを選別することに成功した。また、超伝導の転移温度や転移幅などについて、冷却速度依存を調べ、ゆっくり徐冷することで、超伝導体積分率が上昇することを認識した。 beta”-(ET)2[(H2O)(NH4)2M(C2O4)3]18-crown-6 (M=Cr)において、層間抵抗にShubnikov-de Haas(SdH)振動を観測することに成功し、その振動数と有効質量比を決定した。SdH振動の振動数から得られるフェルミ面の断面積は、バンド計算との一致がよいことを確かめた。振動数の角度依存性から、フェルミ面が2次元構造を持つことを決定づけた。典型的な他の有機超伝導体と比べ、臨界磁場の異方性が大きく、この物質の超伝導状態の2次元性が極めて強い事を明らかにしている。低温で磁場方位が超伝導層に平行方向の時、層間抵抗の磁場依存性に、10T以上の高磁場領域でジョセフソンボルテックスダイナミクスに起因する特徴的な振る舞いを観測した。解析の結果、これらの振る舞いはFFLO超伝導相における整合効果によるものと判断でき、これらの結果からFFLO状態の磁気相図を決定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
クールインキュベーターを購入し、この中でbeta”-(ET)2[(H2O)(NH4)2Cr(C2O4)3]18-crown-6の結晶作成とその合成の最適条件の探索して来た。その結果、結晶作成の温度が室温よりも低いと結晶が小さくなり、冷やし過ぎる(10℃)と結晶が薄くなり反ってしまう事、さらにMeissner volumeの低下も見られ、バルク超伝導ではなくなってしまうこと(不均一性の増大)が明らかとなった。一方、室温よりも高い温度で作製すると、結晶性は良くなり、結晶も大きくなるが、やはりMeissner volumeは小さいことが判明した。今のところ15℃程度での結晶成長がベストのようである。電解条件検討を加速させるため、結晶成長用電解セルを5セット新たに作製している 上記beta”-塩の超伝導特性を明確にとらえるため、単結晶の磁気トルクの測定を継続的に行っているが、Crの局在磁気モーメントによるトルク信号が超伝導反磁性によるトルク信号よりも大きく、超伝導特性を明瞭に観測することには成功していない。これは、単結晶がバルク超伝導体ではないことに起因するもので、より良質の単結晶での測定が必要とされる。
|
今後の研究の推進方策 |
英国で開発したKosterlitz-Thouless超伝導体beta”-(ET)2[(H2O)(NH4)2Cr(C2O4)3]18-crown-6については、結晶作成の温度が高すぎても低すぎてもMeissner volumeが低下してしまうこと、しかし結晶作成温度が高ければ高いほど結晶が大きくなることが判り、間の15℃付近での合成が最適であるとの結論を得ている。そこで15℃付近で1度刻みで電解結晶成長を行うことにより、合成適性温度を見つけ、Meissner volumeが大きくてかつサイズも大きい結晶の作成を目指す。また、結晶中でクラウンエーテル のdisorderが存在するため、超伝導の冷却速度依存が大きいようである。この系の超伝導の冷却速度依存性など、超伝導特性をSQUID磁束計を用いて継続的に調べる。 上記beta”-塩において、より高品質の試料で測定を進め、高磁場でFFLO超伝導相の存在を確定させる必要がある。さらに、超伝導状態が強い2次元性を持つことから超伝導揺らぎが極めて大きいと期待されるため、この揺らぎの大きさを評価する。特に磁気トルク測定を様々な磁場、温度で行い、反磁性信号を精密に測定する予定である。また、FFLO超伝導相が、伝導面内で異方性があるとの観測結果を得ているが、今後、異なる試料で詳細に調べる必要がある。その実験を通して、FFLO相の安定性とフェルミ面の異方性との関係を明らかにしたい。
|