研究課題/領域番号 |
17H01148
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐々 真一 京都大学, 理学研究科, 教授 (30235238)
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研究分担者 |
伊丹 將人 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 特定研究員 (00779184)
横倉 祐貴 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 上級研究員 (50775616)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エントロピー / 対称性 / ミクロとマクロ |
研究実績の概要 |
2018年度では、量子多体系において熱力学状態空間に経路積分を定式化し、その有効作用を導出する理論を完成させた。論文発表当初の形式では、エネルギーシェルのエネルギー固有状態をランダム位相で重ね合わせた状態によって過剰完全系を構築していたが、実際の計算には適切ではないという問題があった。その方針を放棄し、エネルギーシェルへの射影を用いて完全系にもとづく形式化を考えた。ここまでは2017年度で得られていたが、2018年度では、実際にこの方針を用いた計算を行い、熱力学に固有な性質を明示的に仮定することにより、論旨を明晰にし、矛盾なく「熱力学状態空間上の有効作用」を導出した。その結果、この熱力学的解析力学に相当する形式が量子力学にもとづいて得られたことになり、その解析力学の対称性を議論することができるようになった。そして、断熱準静的過程におけるエントロピー保存則が、時間に関する非一様並進の結果であることが示された。この結果は、Phys. Rev. で出版された。
確率過程の定式化については、確率過程における経路積分表示において、断熱準静的過程での対称性を明らかにした。現在、論点をつめながら論文作成中である。ただし、この対称性と時間に関する非一様変換に対する対称性の関係は明示的でなく、完全な解答には至っていない。対称性を通してミクロとマクロの関係を明らかにするのが本研究課題の趣旨なので、ここからが問題の核心部分かもしれない
エントロピーと量子性が関わる現象については、「量子力学系における古典カオス」の創発現象を取り上げた。巨視的に観測されるデータは「古典カオス」だが、それが純粋な量子力学で記述されるような系があるなら、古典カオスを特徴づける「エントロピー」が量子力学の言葉で書かれるはずである。このモデルを具体的に提示するところまではできた。現在、両者の関係を明らかにしようとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子多体系の定式化で時間の対称性を明らかにする理論ができたこと、確率過程における対称性を見出したこと、「古典カオスの量子力学からの創発現象」を具体的に調べ始めたこと、など堅実な進展を達成してきた。しかしながら、確率過程と力学の関係や、ブラックホールと熱力学の関係など、明快な研究結果につながっていない課題もある。これらについても、新しい理解を得ているので、2019年度以降には結果につながると期待している。これらの進展と停滞を総合的に判断すると、概ね期待どおりの発展と考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、量子系については、昨年度からひきつづき、量子多体系において「古典カオス」が創発する現象に焦点をあてる。特に、量子系のエンタングルメントエントロピーと古典系のコルモゴロフエントロピーの関係について、論文として公表する。また、これに関連して、厳密に議論できる模型を模索する。さらに、昨年度に論文出版された定式化を局所場の理論に適用し、量子場の理論として定式化する。多体系におけるエントロピーの干渉効果について、実験デザインの模索を続ける。 確率過程については、昨年度に得られた「対称性」についての成果をまとめ、論文として公表する。また、それに引きつづいて、ミクロな古典力学の対称性との関係を明らかにする。具体的には、ミクロな古典力学系と確率過程の関係を直接結びつける理論を構築する。これは射影演算子法として既知の枠組みの延長にあるが、より現代的に整備することで、新しい展開が可能になる。この理論を踏まえて、ミクロな力学の対称性と確率過程の対称性を結びつける。また、ランダムネスを介してミクロ力学とマクロ力学を結びつける研究と時間に関する対称性の関係を模索する。 ブラックホールエントロピーとの関係を模索する課題は、正準形式の整備を行なう。また、準静的過程にもとづく特徴づけに関する理解を深めつつ、ブラックホールの記述と密接な関係があると想定される相対論的流体力学について、対称性に観点から考察を行う。
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