研究課題/領域番号 |
17H01152
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
増渕 雄一 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (40291281)
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研究分担者 |
山本 哲也 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (40610027)
天本 義史 名古屋大学, 工学研究科, 学振特別研究員(SPD) (70773159)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高分子 / 粘弾性 / シミュレーション / コンポジット / レオロジー / 分子理論 / 管模型 |
研究実績の概要 |
本研究では高分子に固体粒子を含む系の長時間ダイナミクスを扱える新たな分子シミュレーション法および分子理論を開発している.高分子と固体粒子を混合したコンポジット材料は利用が進んでいるが,成形加工等で重要なダイナミクスに関する理解は進んでおらず,従来の分子シミュレーションでも扱いが困難である.われわれは独自のモデルである多体スリップスプリングモデルを拡張し,従来のいわゆる粗視化分子動力学法に対して数百倍の高速計算ができる手法の開発を目指している.シミュレーションで得られる知見を利用して管模型を拡張した分子理論も構築する.理論とシミュレーションの検証のためのレオロジー計測実験も行っている.
平成29年度は以下のような成果が得られた.シミュレーションコードの作成は,われわれが独自に有する多体スリップスプリングモデルに基づくシミュレーションコードの拡張により実施した.当該モデルを散逸粒子動力学法(DPD)と組み合わせ,固体粒子をDPD粒子の集合体として表現した.拡張コードが正しく動くことを確認した.実験においては分子量分布が狭いポリスチレン(PS)メルトに,PSゲルのナノビーズを分散させた系をいくつか作成した.PSナノビーズは,Hawkerらにより提案された分子内クロスリンク法を用いて作成した.得られたナノビーズを,トルエンを溶媒としたキャスト法によりPSと混合し,レオロジー測定用の試料を得た.この試料の動的粘弾性測定を行ったところ,既報の結果と同じく粒子の添加による粘度低下を確認した.理論においては上記の実験で得られた粘弾性データを,まずは既存の管模型の範疇で解析した.その結果,粘度の低下は末端流動域においてのみ観察され,すなわち,からみあいの寿命のみが変化していることが推察された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は概ね良好である.以下にシミュレーション,理論,実験それぞれにおける現状の進捗状況の評価を述べる.まずシミュレーションにおいては予定通り試作段階が終了した.ただし,計画では種々の高分子-微粒子間相互作用を実装する予定であったところが,現状では単純なDPD相互作用の実装に止まっている.この理由は予算削減により人件費がとれなかったためプログラム開発を行うポスドクを得られたかったことにある.しかし相互作用の実装には原理的な困難はなく,単に手間の問題ではある.計算速度の面で並列化効率が思うように上がっていない点は今後対応が必要である.次に実験においては,担当した学生および共同研究者の多大な努力により実験系をゼロから立ち上げることができた.さらに加えてシミュレーションの整合性を見るための粘弾性データを,予備的でありながらも現在の時点で得られている.このように想定以上の成果が得られており,すでに国際会議で発表している.当該の発表は国際的にも注目を集め,中国科学院との共同研究が立ち上がった.また京都大学とも共同研究の相談を進めている.最後に理論においては,得られた予備的な実験データを解析することで非常に興味深い描像が得られている.すなわち,我々が当初想定していたように,管模型の基本的な骨格は崩さずに,分子に対する動的な束縛の緩和時間のみを調整することで分子運動が説明される見通しが立ってきた.
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今後の研究の推進方策 |
予定通り進める.以下にシミュレーション,理論,実験それぞれにおける計画を述べる.まずシミュレーションにおいては,現時点で作成できているコードによるシミュレーションを進め,粒子があるときの高分子の運動を調べる.あわせて,得られる粘弾性が実験と整合するかを確認する.整合性が得られない場合は,まず実験とのズレを見ながら改良点を検討する.シミュレーションの実施と並行して,現時点で導入できていない相互作用を組み込む.具体的には,粒子と高分子の間の相互作用を,単純なDPD相互作用だけでなくLJによる引力相互作用,およびスリップスプリングによる仮想的な架橋,を含めてデザインできるようにする.次に実験においては,中国科学院との共同研究により実験結果の確からしさを検証する.具体的には,大学院生1名を長春に派遣し,われわれの試料を先方の環境で測定して同様の結果が得られるかどうかを検討する.逆に先方の試料もこちらに持ち込んで検討する.先方の試料は高分子および微粒子とも物質が異なるが,同様の結果がえられていることから本質的には同じ現象を観察しているものと思われる.あわせて,京都大学との共同研究により,種々の粒子-高分子間相互作用を実現する.具体的には,無機微粒子であるPOSSへの化学修飾により実現する.現在すでにPOSSを高分子に混合した系での実験は試行している.これらの実験をすすめる.最後に理論においては,実験データを解析することで高分子の運動の束縛因子が種々の粒子の条件,すなわち粒子濃度,粒子サイズ,粒子-高分子間相互作用にどのように影響するかを定式化する.まずは現象論的に式を得て,それを説明できる粗視化理論を構築する.
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