研究課題/領域番号 |
17H01155
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
芳野 極 岡山大学, 惑星物質研究所, 教授 (30423338)
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研究分担者 |
米田 明 岡山大学, 惑星物質研究所, 客員研究員 (10262841)
山崎 大輔 岡山大学, 惑星物質研究所, 准教授 (90346693)
辻野 典秀 岡山大学, 惑星物質研究所, 助手 (20633093)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水 / マントル / 地震波減衰 / 電気伝導度 / オリビン / ゼーベック係数 / アセノスフェア |
研究実績の概要 |
マントルに水が存在すると岩石の融点を下げるだけでなく、マントルの物性に多大な影響を与えることが指摘されてきた。マントルの進化・ダイナミクスを考慮する上で水のマントルの物性への影響の理解は重要である。特にマントルの力学的に柔らかい部分であるアセノスフェアの軟化の成因における水がどのような役割を果たしているかは重要なトピックとなっている。しかしながら、どの程度の量の水が、どのようにマントルの物性へ影響しているかを特定することは簡単ではない。本研究では、微量な水を含むマントル鉱物中の水の物性への影響を、水の量、酸素雰囲気の関数として、弾性定数、減衰(Q値)、電気伝導度、熱起電力を高圧実験の手段によって決定し、地球物理学的な観測データと比較することにより、地球のマントルに存在する水の量と分布の定量化を行うことを目的とする。 本年度は、地震波の減衰への水の効果を決定するために、10ppm以下から200ppmを超える水を含む細粒のフォルステライトの多結晶体を合成して、大型放射光施設SPring-8における高圧下その場観察で実施した。本研究課題で導入した全真空型顕微赤外分光器を用いて合成オリビン試料の赤外吸収スペクトルから、水の量を見積もった。減衰測定を行った試料のスペクトルを実験後に測定し、水の量が測定中に大きく変化していないことを確認した。その結果、水がより多く存在する試料では減衰が大きくなる効果が測定した周波数領域において大きくなることが認められ、さらに5秒程度の周期に特徴的な減衰ピークが現れることが分かった。このことから、マントル中の水を定量化するために、地震波の減衰は重要なパラメータであることが示唆され、アセノスフェアで観測される地震波の減衰現象を水の存在の視点から見直す必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の重要なターゲットとして掲げている地震波の減衰に与える水の効果に関する研究で、大型放射光施設SPring-8 の実験において、水の効果が先行研究の測定結果とは異なりもっと大きい可能性があるというデータが得られた。これは、オリビンにTiを導入して含水化させた試料と本研究での通常のMgサイトとSiサイトを含水化させた試料の違いに起因していると考えられる。現在論文にまとめる段階に至っており、本年度は特筆すべき進展が減衰測定においてあった。また、本研究課題で開発する世界でも類稀な高温高圧下での温度差を制御した熱起電力測定について、導電性の高いシリコンについてデュアル加熱システムを使って高圧下の測定を行った。Siの測定で得られたゼーベック係数の絶対値温度依存性は既存の文献値と調和的な結果であり、この新手法については国際誌の査読を受け、信頼できる手法として認められた。この方法論の確立によって、今後、含水オリビンのゼーベック係数を行う素地が完成した。これらのことから、次年度の最終年度に向けて、本研究課題は当初の計画通り着実に遂行していると評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
高圧下でのゼーベック係数の測定法が今年度で確立されたことから、最終年度は含水オリビンの電荷の移動機構の特定を目指して測定を開始する。今までに測定に成功した電気伝導性の良い物質に比べ、電気伝導度の低いオリビンは熱起電力のシグナルが弱いことが予想され、測定が難しいものと思われる。このため、オリビンの鉄濃度を増加させることによって、電気伝導度を高くすることで、熱起電力のシグナルを捉えることを予定している。そして徐々に実際のマントル組成に近いオリビン組成のものを測定する。Mg#が90程度のものがうまく測定できない場合は、鉄の濃度の高い試料の結果を外挿する予定である。地震波減衰への水の影響に関する実験は、大体、結果が出てきたが、相補的に水がない場合の減衰への影響を調査して多角的にアセノスフェアの減衰の原因を考察する必要がある。岩石が融解するより低い温度で、減衰の現象が現れることがアナログ物質の測定から指摘されており、水が無くかつ融点以下でも減衰が起こりうる。この現象はプレメルティングと呼ばれており、この効果を実際の岩石組成で確認することも必要である。具体的には、無水のペリドタイトを合成して、その試料を出発物質として融点直下近傍での減衰挙動を調査する。これらの研究から総合的にアセノスフェアの軟化の原因を制約していく。
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