研究課題/領域番号 |
17H01156
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
三寺 史夫 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20360943)
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研究分担者 |
白岩 孝行 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (90235739)
的場 澄人 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (30391163)
杉山 慎 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20421951)
立花 義裕 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (10276785)
美山 透 国立研究開発法人海洋研究開発機構, アプリケーションラボ, 主任研究員 (80358770)
中村 知裕 北海道大学, 低温科学研究所, 講師 (60400008)
西岡 純 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (90371533)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | カムチャツカ半島 / 陸海連関 / 淡水供給 / オホーツク海 / 北太平洋中層循環 / 物質循環 |
研究実績の概要 |
親潮域が豊かな海である要因は、オホーツク海で海氷生成時に高塩化して重くなり沈降し、北太平洋中層水となって栄養物質を輸送する熱塩・物質循環にある。オホーツク海で沈降する海水(高密度陸棚水;DSW)の塩分はカムチャツカ半島の降水量に敏感なため、半島から海洋に流出した河川水がDSW塩分を通して、この循環の変動を引き起こす可能性が高い。この陸海連関の解明が本研究の目的である。 カムチャツカ半島の河川から海洋に供給される河川流量を求めるために、カムチャツカ半島の12河川においてロシア連邦気象水文・環境監視局が収集した河川流量データを購入した。さらに、これらのデータの現場検証と追加データの取得が必要と判断されたため本補助金を繰越し、平成30年7月にカムチャツカ半島最大の流域をもつカムチャツカ川の調査を実施した。同時に、河川水の海洋への流出を調べるための、衛星海色データの収集を進めた。これと並行し、カムチャツカ半島を代表する湿原河川が沿岸海域に淡水を供給するにあたって重要なプロセスとなる潮汐混合を解明すべく、北海道東部の別寒辺牛川において通年にわたる河川水流出過程の現地観測を開始した。 カムチャツカ半島からの河川水流出がオホーツク海および北太平洋の熱塩循環に与える影響を調査するため、数値シミュレーションを開始した。平成29年度は、北太平洋全域をカバーする高解像度モデルを用い、河川水流出の有り・無し実験を行った。ここでは、アムール川以外の、カムチャツカ半島からオホーツク海北部沿岸の河川水の影響を調べた。その結果、オホーツク海北部陸棚域で生成される高密度水(Dense Shelf Water; DSW)の塩分、さらにはDSWの沈み込みとオホーツク海の中層循環が河川水の有無に大きく影響を受けることが分かった。並行して、海洋沿岸流と河川水の詳細な関係を調べるためのシミュレーション構築を始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カムチャツカ半島の12河川の月別流量データを最長で80年間分入手することができたので、これらの河川の流量特性を把握することが可能となった。カムチャツカ半島最大の流量を持つカムチャツカ川に加え、第2の流量を持つペンジナ川のデータを入手することができ、融雪期に集中して流出があること、また経年変動が大きいことが分かった。ペンジナ川はDSWの形成域に近いため、この河川特性の解析は重要である。また、最大の流域をもつカムチャツカ川の河川水が太平洋に流出してからどのような経路で輸送されるかを知るために、衛星からの海色データを用いてカムチャツカ川河口から太平洋沿岸における河川水の痕跡を追跡したところ、河川水は半島の沿岸に沿って南へと輸送されることが示唆された。それゆえ、本研究で最初に提示したカムチャツカ半島の河川水がカムチャツカ半島沿岸の塩分濃度に影響を与え、オホーツク海のDSW形成の多寡に影響しているという仮説の蓋然性を一部確認することができたと考える。 一方、数値モデルを用いた解析では、カムチャツカ半島からオホーツク海北部沿岸における河川水のDSW塩分に対する影響を調べるために、オホーツク海を特に高解像化した北太平洋モデルを用いた。カムチャツカ半島からオホーツク海北部沿岸域の河川水有り・無し実験を行ったところ、カムチャツカ半島はDSW形成域の上流側にあたるため、DSW塩分に対する河川水の影響が大ききことが分かった。一方で、アムール川のDSW塩分に対する直接的影響は小さいことが示唆された。また、非構造格子を用いオホーツク海全域をカバーする海洋沿岸流モデルの構築を開始した。非構造格子を用いることで沿岸域を非常に細かく解像することができ、河川流出水と沿岸流の詳細なシミュレーションを行うことが可能となる。このように、順調に研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
河川流量データを得ることができた12河川における流域面積と流量の比(比流量)をもとに、河川流量データの得られないカムチャツカ半島の全河川の流量データを流域面積から推定し、カムチャツカ半島全域の河川から海洋へと供給される淡水流量を求めることを試みる。一方、客観解析データから求められる可降水量のデータを活用し、カムチャツカ半島の各河川流域から流出する河川流量も並行して計算する。これら二つの方法によって求められた河川流量は、河口域の流出プロセスを無視したものであるので、年間流出量として用いることは可能であるが、月別流出量として用いることは難しい。そこで、別寒辺牛川の観測で明らかとなる湿原の流出プロセスをカムチャツカ半島の河川流出プロセスのモデル化に応用する計画である。 また、河川流出水の海洋における振る舞いに関して、最大の流域をもつカムチャツカ川の河川水が太平洋に流出してからどのようなプロセスと経路で輸送されるかを調べるためにカムチャツカ川河口域から海岸線に沿って現地調査を行い、塩分濃度と水温を指標に河川水を追跡する。 一方、非構造格子を用い沿岸域を詳細に解像する海洋沿岸流モデルの開発を進める。まずは、オホーツク海領域のモデルを構築しカムチャツカ半島の西側沿岸から流出する河川水の挙動とDSWへの影響を調べる。また、オホーツク海を特に高解像にした北太平洋物質循環モデルの開発を進める。今年度の河川有り・無し実験により、このモデルで河川水のDSWへの影響を大まかに再現できることが分かった。来年度は、中層鉄循環など物質循環の再現性向上を重点的に進める。その後、物質循環に対する河川水の影響を、数値シミュレーションにより検討する。
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