研究課題/領域番号 |
17H01157
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大島 慶一郎 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (30185251)
|
研究分担者 |
深町 康 北海道大学, 北極域研究センター, 教授 (20250508)
平野 大輔 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (30790977)
二橋 創平 苫小牧工業高等専門学校, 創造工学科, 准教授 (50396321)
青木 茂 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (80281583)
西岡 純 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (90371533)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 海氷生成 / 中深層水 / 気候変動 / 海洋物理 / 人工衛星 / 物質循環 / 沿岸ポリニヤ |
研究実績の概要 |
平成30年度は、北極海、南極海、オホーツク海の3海域でのポリニヤ内での係留系観測とその解析を中心に研究を行った。北極チャクチ海ポリニヤにおいて蓄積されたADCP(Acoustic Doppler Current Profiler)と濁度計のデータの解析からは、海中でのフラジルアイス生成と海底堆積物の巻き上がりが同時に起こり、それによって海氷内に鉄等の堆積物が取り込まれる過程(suspension freezing)が頻繁に起こることが強く示唆された。オホーツク海サハリンポリニヤでの解析では、強風かつ強い流れがあるときに、海底まで及ぶ全層でフラジルアイス生成が起こることが示された。これは非常に効率的な海氷生産過程をもたらし、このポリニヤ内での海氷生産の半分以上はフラジルアイス生成によるものであることがデータから示唆された。昨年度に南極ケープダンレーポリニヤ内に設置された係留系が第60次日本南極地域観測隊によって回収された。この系には周波数の異なる3台のADCPと濁度計・水温塩分計が付いており、海中でのフラジルアイス生成や海底堆積物の巻き上がりに対して、今までにない定量性の高い解析が可能となる。また、白鳳丸としらせにより、ケープダンレーポリニヤ内とその沖の底層水の通り道に、ADCPや時系列採水器が付いた計5つの係留系を設置した。さらに、最新の衛星マイクロ波放射計であるAMSR2からフラジルアイスを検知できるアルゴリズムを開発した。今後、衛星海氷データと係留系データの組み合わせによる解析から、ポリニヤでの高海氷生産システムや物質循環の理解が深まることが期待される。オホーツク海に関しては、過去に蓄積されたフロートデータの解析から、北西陸棚ポリニヤからの高密度陸棚水が千島海盆内で他の水塊と混合してオホーツク海中層水になる過程などを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々が蓄積してきた南極海、北極海、オホーツク海の3つの海域でのADCPや濁度計の係留系データの解析は順調に進んでおり、一部は論文としても投稿されている。本課題で最も重要となる観測である、沿岸ポリニヤ域での係留系設置・回収は、昨年度の北極海に引き続いて南極海でも成功した。過去には氷山で係留系が破損するなど係留系観測が難しい海域で、回収に成功したことは、本研究において核となるデータを得たことになる。順調に進んでいる過去のADCPデータの解析と合わせて、研究が大きく前進することが期待できる。最新の衛星マイクロ波放射計AMSR2の薄氷厚・フラジルアイス検知アルゴリズムの開発も順調に進められ、回収した係留系データとあわせた解析が今後実施できる見通しもたっている。
|
今後の研究の推進方策 |
今までは、南極海、北極海、オホーツク海の3つの海域で蓄積された係留系データを個別に解析してきたが、極域海洋を代表する3海域のデータがあるのでそれらを統合的に解析し、今後はケーススタディではなく汎用性のある高海氷生産過程や海氷への物質取り込み過程を提案することをめざす。また、係留系観測と同時期に取得された衛星マイクロ波放射計AMSR2による海氷データの解析を急ぎ、両者を合わせた研究を推進する。昨年度発見された、南極のポリニヤでのフラジル・ブルーミングという現象に対して、現場データと衛星データを合わせて解析し、この現象のメカニズム解明や生物生産・物質循環へのインパクトを評価する。オホーツク海に関しては、まだ十分利用されていないフロートによる酸素データを用いて、海氷融解によるブルーミングや物質循環研究を進める予定である。
|