研究課題/領域番号 |
17H01164
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
齋藤 義文 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 教授 (30260011)
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研究分担者 |
笠原 慧 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (00550500)
横田 勝一郎 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 助教 (40435798)
平原 聖文 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (50242102)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 質量分析器 / 人工飛翔体 / 中性粒子 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は将来の地球の電離圏・磁気圏観測や他天体の周回観測及び他天体への着陸探査を含めた惑星探査に向けた、人工飛翔体搭載用の中性粒子の質量分析器を開発することである。平成29年度には、複数の質量分析器に共通の開発項目である「中性粒子の電離機構部」「宇宙機搭載用パルス高圧電源」の開発を進めた他、4つの質量分析器について既に試験モデルのあるものについては特性取得試験を行い、設計通りの性能の実現を目指し改良を進めた。「中性粒子の電離機構部」の開発については、レニウムタングステンを用いた電子銃の試験を実施した。さらに,より出力の大きい電子銃として、酸化バリウムを多孔質タングステンに含浸させたカソードを設計・製作した。「マルチターンTOF型質量分析器」については、宇宙機搭載可能な質量分析器の実現を目指して「宇宙機搭載用パルス高圧電源」の開発に着手し、昇圧レベル300V・消費電力1W強・立ち上がり時間30ナノ秒で昇圧後の平坦さ10%以内を実現した試作版パルス高圧電源を製作した。「多反射リフレクトロン型質量分析器」については、1回反射リフレクトロンの実験室モデルに改良を施し試験を実施したが、初期の目標であった質量分解能200は予想外の質量ピークが観測されたため実現出来なかった。これと並行して多反射リフレクトロンの設計を開始した。「四重極型質量分析器」については、質量分析器の試作・試験に用いる真空槽・排気装置を、東大の実験室に新たに導入して試験の準備を整えた。「2次元速度計測用ベネット型中性粒子分析器」については、中性粒子分析器の較正実験を実施するため、粒子ビームラインを効率的・能率的に構築・改修を行えるビームモニターシステムを開発した。また、中性粒子速度質量分析器の試作器を製作した後、初期設計では雑音除去が十分でない可能性が判明したため、分析器内に追加の電極構造の設置を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画では、平成29年度には複数の質量分析器に共通の開発項目である「中性粒子の電離機構部」と「宇宙機搭載用パルス高圧電源の開発」を進め、既に試験モデルのあるものについては特性取得試験を行い、設計通りの性能の実現を目指し改良を進める計画であった。このうち、「中性粒子の電離機構部」については、東京大学における電子銃・質量分析試験に必要な真空関連設備を整備し、これを用いてレニウムタングステンのカソード(電子銃)の出力・電力特性を把握した。さらに、この従来型カソードに比して10倍程度の大出力(1mA)を可能にする電子銃として酸化バリウムを多孔質タングステンに含浸させたカソードを選定し設計・製作した。「宇宙機搭載用パルス高圧電源の開発」についても予定通りパルス高圧を試作した。本パルス高圧は、「マルチターンTOF型質量分析器」開発の一部として実施したが、他の質量分析器にも必要なものである。多反射リフレクトロン型質量分析器」については、予定通り、1回反射リフレクトロンの実験室モデルに装置内部の静電シールドを強化するなどの改良を施し試験を実施したが、目標としていた質量分解能200は予想外の質量ピークが観測され実現出来なかったため一部の試験を平成30年度に繰り越すことにした。平成29年度には、並行して多反射リフレクトロンの計算機による設計を実施した。その後、平成30年度に1回反射型リフレクトロンの実験室モデルの更なる改良と、測定装置の改良を行った。所期の質量分解能200には到達できなかったものの、「多反射リフレクトロン型質量分析器」の詳細設計に反映すべき基本的な設計指針を得ることができた。「2次元速度計測用ベネット型中性粒子分析器」については、重イオンの照射試験を実施することができた。以上のように、ほぼ申請時の計画に沿って研究は進んでいるため、概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
4年間の研究計画のうち平成29年度が初年度であった。平成30年度以降は、申請時に予定した通り、「マルチターンTOF型質量分析器」については、宇宙機搭載可能な分析器制御部の開発を行う。「多反射リフレクトロン型質量分析器」については、試験モデルの試作と、レーザーによる固体物質の気化を行う部分の設計・試作を行う予定である。「四重極型質量分析器」については、搭載用四重極質量分析器の設計を実施する計画である。「2次元速度計測用ベネット型中性粒子分析器」については、中性粒子速度質量分析器に取り付ける2次元位置検出機能を有する検出器の開発を実施する。この検出器はそれ単体で2次元空間分布を取得する機能を有する必要があり、現有の検出器からのパルス信号の波高分析を多チャンネルで行い、空間位置情報として算出可能なシステムを構築する予定である。これらに加えて、複数の質量分析器に共通の開発項目である「宇宙機搭載用パルス高圧電源の開発」について更にパルスの立ち上がり時間を短くして、出力電圧をあげるように平成30年度も開発を継続することにした。また、「中性粒子の電離機構部」については、平成29年度に製作した含浸カソードの性能試験・耐久性試験を,整備した真空関連設備を用いて実施する。含浸カソードは水蒸気による酸化に弱いため,その劣化の進行を調べ、対策を確立する。また,含浸カソード以外に、酸化イットリウムをイリジウムにコーティングしたカソードも試作・試験する計画である。
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