研究課題
本研究の目的は、深さ~1000 kmの粘性率異常の原因を解明することである。最近のジオイド研究から、下部マントルの深さ1000km付近で粘性率が1-2桁増加することが指摘されている。この粘性率増加のマントル対流への影響が660 km不連続面と同程度かそれ以上であることは、沈み込むスラブの滞留が1000 km近傍で観測されていることからも明らかである。従って、全マントルの運動を理解する上で非常に重要な課題である。下部マントルは主にブリッジマナイトとフェロペリクレースの2相混合岩石で構成されているが、その量比(パイロライト的かコンドライト的か)については、未だ、議論の的である。本研究では、この2相の混合比さらにはその微細構造の粘性率への影響を明らかにし、観測されている粘性率増加のメカニズムを物質科学的に解明するとともに、下部マントルの化学組成(岩石モデル)に関して新たなアプローチにより制約を与えることを目標としている。そのため、物質科学的なアプローチにより、構成鉱物の粘性率を明らかにするために、拡散実験と変形実験を計画してきている。29年度は、主に変形実験装置の導入とその試用を行った。汎用装置を用いて下部マントルの圧力条件で変形実験を行うことは容易ではない。我々のグループでは、D-DIA型変形高圧装置に川井型セルを組み込みBrgの変形実験に成功しているが、装置の制約上、歪み量が限られる。そこで、[111]型マルチアンビル高圧装置を改造した変形装置の導入を行った。この装置では、D-DIA型装置よりも大きな歪み量が得られ、かつ均質な温度圧力場での変形実験が可能となる。
2: おおむね順調に進展している
岡山大学惑星物質研究所への変形実験装置の導入はほぼ完了し、初期試験を行った。変形をもたらす差動ラムの動作確認および校正を高圧下で行い、次の段階への準備を整えた。また、共同利用研放射光施設であるKEKにおいて、その場高温高圧変形実験を遂行した。高温したで約25 GPaの発生を確認し、下部マントル条件の再現に成功した。また、拡散実験を行うための出発試料の合成も行ってきており、良質な多結晶体や単結晶の準備も整ってきている。このような状況を総合的に判断して、おおむね順調に進展していると思われる。
実験装置の導入もほぼ完了し、今後は、技術的な側面を突き詰め、安定した変形実験の遂行を可能とする。この技術の確立は、その場X観察高圧変形実験にも応用でき、多大な成果が期待できる。また、上記と並行して、拡散実験を遂行していく。拡散実験は技術的には大きな困難がないので、実験・分析を重ね、成果を得る。
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