研究課題/領域番号 |
17H01180
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岸本 泰明 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (10344441)
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研究分担者 |
坂口 浩司 京都大学, エネルギー理工学研究所, 教授 (30211931)
深見 一弘 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60452322)
福田 祐仁 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 光量子科学研究部, 上席研究員(定常) (30311327)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高エネルギー密度科学 / プラズマ閉じ込め / 超高強度レーザー / 構造性媒質 / 水素クラスター / 高強度磁場生成 / 自己組織化 / 高エネルギー粒子加速 |
研究実績の概要 |
本研究は、構造性媒質への高強度レーザー照射によって、高エネルギーイオンの発生と生成した高エネルギー密度プラズマを閉じ込めることを目的として、平成30年度は以下の研究を推進した。 (1)極限輻射プラズマの理論と数値モデル(課題1・2):(a)磁場のリコネクションを介した反転磁場配位(FRC)の生成を目的として、背景磁場存在下でロッド状ターゲットに高強度レーザーを照射する2次元粒子シミュレーションを実施し、ロッド内外のプラズマと磁場の圧力がバランスすることで、ピコ秒オーダで高エネルギー密度プラズマの閉込めが実現することを明らかにした。(b)単一ロッドおよびロッド集合体に臨界密度領域の背景ガスを導入した媒質に高強度レーザーを照射する2次元粒子シミュレーションを実施し、両者の接触面において衝撃波加速や準安定非線形波の形成等の多彩な非線形現象が創出されることを明らかにした。また、ロッド集合体を用いた場合、媒質中に形成された強磁場が生成されたプラズマを閉じ込める機能を有し、音速で決まる慣性を越えて準定常的に存在することを見いだした。 (2)構造性ターゲットの作製(課題3):平成29年度に開発したドライエッチング手法を用いて、エッチング条件を変化させることで、高アスペクト比(高さ/直径~100)のロッド集合体を安定して作製する手法を確立した。 (3)イオン加速実験の実施(課題4):高強度レーザー照射された水素クラスター内に生じる衝撃波により、準単色高エネルギー陽子線が生成可能であることを、3次元粒子シミュレーションにより明らかにした。これを踏まえ、量研関西研のJ-KAREN-Pレーザーをマイクロメートルサイズの水素クラスターに照射する実験を実施した。その結果、シミュレーションと同様の加速メカニズムにより、単色性の強い陽子線を生成した可能性があることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
構造性媒質に高強度レーザーを照射することで生成する高エネルギー密度プラズマを、慣性時間を越えて閉じ込める手法を確立させることを目的として、H29年度に引き続き、(a)背景磁場の印加によるFRC様の閉込め配位の生成、(b)ロッド集合体と背景ガスからなる媒質の選択による自己生成磁場の生成とプラズマの閉込めについての研究を進展させた。 (a)は、FRC様磁場配位の実現には至らなかったが、ミラー磁場配位によるピコ秒オーダでの高エネルギー密度プラズマの閉込めを実現するパラメータ領域(レーザー強度・ロッド径・背景磁場強度)を明らかにした。 (b)は、ロッド集合体と背景ガスの界面を通じた相互作用が準定常強磁場生成とそれによる高エネルギー密度プラズマの閉込めに本質的な役割を果たしていることを明らかにした。本成果は、実験可能な配位・レーザー強度で、高エネルギー密度プラズマの生成と閉込めの可能性を提案するものであり、当初目的は達成されたと判断している。 また、H29年度に開発したドライエッチング手法を発展させる形で、前例のない高アスペクト比のロッド集合体を精緻に作製する手法を確立させたことは、基板の影響を最小限にしたレーザー照射実験を実現するものである。 さらに、高強度レーザー照射により水素クラスター内部に生成する衝撃波を利用することで、医療応用に資する高品質陽子線が生成可能であることをシミュレーションにより明らかにした。本成果は権威ある国際誌Physical Review Letters誌に掲載されるとともに、京大・量研からプレス発表されるなど、高い評価を得ている。また、量研関西研において検証実験が行われ、シミュレーションと同様のメカニズムにより、準単色性の強い陽子線が生成されることを実証した。以上より、本課題については十分な達成度を確保したと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度の成果に基づき、H31年度は、構造性媒質と高強度レーザーとの相互作用実験に向けた検討、およびFRC生成に関する理論モデルの構築に関する研究を推進する。 具体的には、H30年度に高アスペクト比のロッド集合体の作製手法を確立させたことを踏まえ、ロッド集合体に背景ガスを導入する方法を検討し、これに高強度レーザー(量研関西研のJ-KAREN-Pレーザーを想定)を照射する実験を実施する。それにより、媒質中での準定常強磁場の生成を実証するとともに、磁場による高エネルギー密度プラズマの慣性時間を越えての閉込めの実現を目指す。磁場については、ファラデー回転を利用した干渉計の設計と計測を検討する。並行して、実験を想定した粒子シミュレーションを進展させ、準定常強磁場が生成するパラメータ領域(レーザー強度、ロッド径、アスペクト比)を明らかにする。 さらに、クラスターの球としての特性を、高エネルギー密度プラズマの閉じ込め効率の向上とFRC生成に利用することを目的として、ロッド状ターゲットに代わりクラスターを用いた3次元シミュレーションを実施する。これにより、FRCが生成するレーザー強度やクラスター半径、背景磁場強度に関するパラメータ領域を見出すとともに、FRCの生成メカニズムを記述する理論モデルの構築に向けた研究を行う。 また、これらの研究を円滑に進めるには、3次元配位での大規模シミュレーションの実施が必要になる。そこで、並列化効率の向上を含めた拡張型粒子コード(EPIC)の整備・開発を行う。さらに、ロッド集合体と高強度レーザーとの相互作用実験では、媒質からのX線輻射の計測がプラズマの状態(イオンの価数・電子温度)を同定する上で有用な手段となることから、制動輻射によるエネルギーを計算するルーチンをコードに実装し、制動輻射の効果を含めたシミュレーションを実施する。
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