研究課題
Fulvimarina rhodopsin(FR)は光駆動塩化物イオン輸送タンパク質である。FRは全トランス形レチナールを発色団としてもち、その光異性化がイオン輸送のトリガーとなる。最近、FRのアミノ酸残基のうち3つを置換した変異体(N110D、Q121E、S255F)がプロトン輸送活性を示すことが報告された。野生型とプロトンポンプ型変異体はほとんど同じ配列を持ちつつ機能だけが異なることから、輸送するイオンを決定する要所のみに違いがあると考えられる。その候補のひとつである発色団構造を比較することで塩化物イオン輸送とプロトン輸送の機能発現の仕組みが明らかになると期待できる。そこで、これらのタンパク質の始状態、反応初期中間体における発色団構造を時間分解共鳴ラマン分光法によって調べ、両者の特徴を比較した。野生型のプロトン化シッフ塩基は弱い水素結合を水以外の化学種(塩化物イオンの可能性が高い)と形成しているのに対し、プロトンポンプ型変異体のプロトン化シッフ塩基は水分子と強い水素結合を形成していることが明らかになった。天然のプロトンポンプのプロトン化シッフ塩基は、始状態で強い水素結合を形成しており、水分子と相互作用していることが報告されている。この特徴はFRのプロトンポンプ型変異体にも観測された。共通した特徴が見られることは、水分子と強い水素結合を形成することがプロトンの輸送を実現する必要条件であることを意味する。さらに、カチオンポンプとアニオンポンプを比較することによって、タンパク質の構造変化に伴って生じる電荷の局所的な偏りを補正するようにイオンが移動するという共通原理が見いだされた。
2: おおむね順調に進展している
PASタンパク質が機能するメカニズムを理解するために、単に構造変化を調べることに加えて、機能に関わる構造変化を明らかにした。また、ドメイン間がどのように連動して外部刺激の情報を伝達しているのかを時間分解測定により調べ、2つのドメインが一体となって構造変化することで情報を伝達することを明らかにした。天然のPASタンパク質FixLを手掛かりに、そのメカニズムを明らかにし、そのメカニズムを基にしたPASタンパク質を創って、実証することで、PASタンパク質に共通するメカニズムをより深く理解することができた。
イオン輸送タンパク質について、発色団の構造変化を明らかにすることはできたので、今後はタンパク質部分の構造変化を明らかにし、発色団とタンパク質部分の連動的なダイナミクスを調べていく。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/mizutani/index-jp.html