研究実績の概要 |
以前の研究で反芳香族性を有するエテノ縮環ポルフィリンは速やかに熱的な[2+2]環化付加反応を起こし、シクロブタンで架橋されたテトラポルフィリンを与えることを見いだしている(J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 8392)。本研究では、シクロブタン架橋テトラポルフィリンの加熱や酸化還元反応に対する動的挙動を調査した。テトラポルフィリンのニッケル錯体は2段階で4電子酸化され、架橋部のシクロブタン環の開裂が起こり、エテノ縮環ジポルフィリンジカチオンへ変換されることを明らかにした。さらに、得られたジカチオンを還元すると[2+2]環化付加反応が起こり、テトラポルフィリンが得られ、この酸化還元反応が可逆的であることを明らかにした。 また、反芳香族化合物であるノルコロールのフリーベース体について、その内部空孔に元素を取り込むことを試みた。種々の元素を検討した結果、三臭化リンと反応させたときにヘテロ原子としてリンがノルコロールに取り込まれ安定な錯体を形成することを見いだした。興味深いことに、このリン錯体においてはノルコロールはテトラアニオン配位子として作用していることが単結晶X線構造解析から明らかになった。その結果、ノルコロール配位子は18π電子系となり明確な芳香族性を示した。芳香族化に伴い、1H NMRスペクトルにおいてはシグナルの顕著な低磁場シフトが観測された。また、吸収および発光スペクトルにおいて芳香族ポルフィリンに典型的な特徴を示すことを明らかにした。
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