五員環であるチオフェンが縮環した多環芳香族炭化水素は数多く報告されているが、六員環にチオニウムイオンを導入した荷電種であるチオピリリウムカチオンを縮環させたものは、正電荷に由来する高い反応性から合成例が限られている。今回、我々はチオニウムイオンをポルフィリンに挿入したチアポルフィリニウムカチオンを合成した。すなわち、ビリンジオンをチアビリンジオンに変換し、これを環化させることによりチアポルフィリニウムカチオンを合成することに成功した。この化合物を求核性の低いアニオンを用いて安定に単離し、単結晶X線構造解析からその構造を明らかにした。さらに、チアポルフィリニウムカチオンの光学特性の詳細を調べた。オキサポルフィリニウムカチオンが比較的強い蛍光を示すのとは対照的に、チアポルフィリニウムカチオンはまったく蛍光を示さなかた。酸素とイオウで大きく異なるヘテロ原子の効果を明らかにするため、高速分光測定および理論計算による解析をおこなった。その結果、チアポルフィリニウムカチオンでは一重項励起状態から内部転換で失活することが明らかになった。これは、オキサポルフィリニウムカチオンでは、一重項励起状態から三重項励起状態への項間交差と輻射失活の寄与が大きいことと対照的である。この内部転換は、硫黄原子がポルフィリン平面の外に動く振動モードに起因することを明らかにした。 オキサポルフィリニウムカチオンでは、励起状態が超高速で失活することから、光音響イメージングへと展開できる可能性があり、今後検討していく予定である。
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