研究課題
新規異常高原子価コバルト酸化物Sr1-xCaxCoO3における磁気基底状態の変化の起源を探るため、電気抵抗率測定と比熱測定を行った。その結果、強磁性的なx<0.6の組成では室温近傍で金属的挙動が見られるのに対し、らせん磁性の可能性が示唆される半強磁性的なx≧0.8の組成では半金属あるいは半導体的な挙動が見られることが分かった。また、この変化に伴って、電子比熱が3割程度減少することが確認された。これらの結果は磁気基底状態の変化に伴って、擬ギャップが生じていることを示唆するものであり、CaCoO3において結晶構造解析から示唆されたヤーンテラー歪みの存在と整合する結果となった。擬1次元鎖構造をもつ新奇ペロブスカイト型銅酸化物PrCuO3と3次元的なペロブスカイト型銅酸化物LaCuO3の混晶系La1-xPrxCuO3の高圧合成を行い、放射光X線を用いた精密構造解析や電気抵抗率測定および比熱測定を行った。x>0.6はPrCuO3と同じ1次元的ペロブスカイト構造をもつ半導体、x<0.6は3次元的ペロブスカイト型構造をもつ金属であることが分かった。また、越智らによる第一原理計算から、このAサイト置換に依存した構造転移は、Prの4f軌道とCuの3d軌道間の電荷移動によって引き起こされることが示唆された。また、PrCuO3は半導体あるいは半金属的であるにもかかわらず非常に大きな電子比熱係数を示すことが明かとなり、これは4f軌道がフェルミエネルギー近傍にあることを反映している可能性がある。一方で、PrCuO3は最低温まで磁気秩序を示さないことから、擬1次元構造による長距離秩序の抑制が低温における大きなスピンエントロピー残留をもたらしている可能性も考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本年度はペロブスカイト型コバルト酸化物や新規ペロブスカイト型銅酸化物Pr1-xLaxCuO3に対して系統的な物性測定を行い、その特異な磁性や構造歪みの起源に関する理解が進んだ。また、強磁性ーらせん磁性転移を示す異常高原子価コバルト酸化物Sr1-xCaxCoO3に関する論文発表を行い(H. Sakai et al., Phys. Rev. Mater)、高圧学会誌の特集(高圧力場が切り拓く材料科学の新展開)にて、異常高原子価鉄・コバルト酸化物に関する解説記事を寄稿するなど、本研究課題の成果がまとまりつつある。
PrCuO3のように特異なCu-O格子を有する新規ペロブスカイト型銅酸化物の開拓と物性測定を進め、Cu2+/3+系ペロブスカイトにおける構造機能相関の解明を目指す。また、Fe4+/Co4+を内包する新奇ペロブスカイト型酸化物の高圧合成とトポロジカルらせん磁性相の探索を進める。特に多彩なトポロジカルらせん磁性を示すSrFeO3の周辺物質として、(Sr,Ba,La)FeO3の網羅的高圧合成を行い、Fe4+系酸化物における特異な磁性の全容解明を目指す。また、第一原理計算を活用した3d,4d遷移金属酸化物高圧相の探索にも力を入れる。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
Phys. Rev. Mater.
巻: 2 ページ: 104412
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高圧力の科学と技術
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