研究課題/領域番号 |
17H01198
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石谷 治 東京工業大学, 理学院, 教授 (50272282)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リング状レニウム(I)錯体 / Keggin型ポリ酸 / 光物性 / CO2還元 / 光触媒 / 超分子 |
研究実績の概要 |
触媒機能を有する金属錯体をリング状Re(I)多核錯体に導入するために必要な合成経路を確立する事に成功した。薗頭クロスカップリング反応を用いることで、フリーなジイミン配位子がエチニル基でリング状Re(I)三核錯体に結合した錯体の合成法を確立した。比較的温和な反応条件で、この多核錯体に、CO2をCOへと選択的に還元する触媒として機能することが知られているRe(I)ジイミントリカルボニル錯体を触媒部として導入することができた。具体的には、Ringと触媒部がエチニル鎖で連結した Re(I)四核錯体(Re≡Ring)を比較的良い収率で得ることができた。 リング状Re(I)四核錯体と、SiおよびGeを中心に持つKeggin型ポリ酸(SiPOMおよびGePOM)の超分子複合体(Ring-XPOM)の有機溶媒(DMSO)中での構造を各種分光および粒径測定により詳細に検討した。その結果、何れの複合体もDMSOに溶解し、しかもリング状Re(I)四核錯体とポリ酸が1:1のイオンペアーとして超分子を形成したまま存在していることが明らかとなった。Ring-XPOMは、DMSO溶液に還元剤(BIH)を共存させ可視光を照射すると合計で3電子を1超分子内に蓄積することが分かった。この光多電子還元反応は、励起されたリング状Re(I)四核錯体内で光励起されたRe錯体部が、超分子内のポリ酸により酸化的消光を受けることによって開始される。酸化されたRe錯体部が素早くBIHにより再還元されることでポリ酸部が1電子還元された超分子の1電子還元種が高効率かつ安定に生成する。さらにリング部のRe錯体が励起されることで、ポリ酸部の2電子還元が進行した。この後の光還元によって超分子内に取り込まれる3つ目の電子は、SiPOMの場合はRe錯体部に蓄積されるが、GePOMの場合、溶液中に発生したプロトンを取り込みながらGePOMにさらに蓄積されることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度までに開発したリング状Re(I)多核錯体と単核金属錯体を直接結合する合成法では、金属錯体の嵩高さのため手間がかかり、また低収率となることが問題であった。今回開発した、まず薗頭クロスカップリング反応を用いてフリーなジイミン配位子がエチニル基でリング状Re(I)三核錯体に結合した錯体を合成し、それを触媒前駆錯体と反応させることでリング状Re(I)三核錯体に触媒部を挿入する方法により4核錯体(Re≡Ring)の合成収率を大幅に向上することができた。フリーなジイミン配位子と様々な触媒前駆体を反応させることで、多様なリング状Re(I)多核錯体を光増感部として持つ超分子光触媒の開発に繋がる成果である。 リング状Re(I)四核錯体とポリ酸が1:1のイオンペアーとして超分子を形成したまま存在していることが証明できたことにより、多価のカチオンであるリング状Re(I)四核錯体と多価のアニオンであるポリ酸で構成される超分子が溶液中で様々な光機能性を発現する可能性がある事が分かった。今回は、中心元素がSiおよびGeと異なる2種のKeggin型ポリ酸を用いたが、この超分子合成法はかなり一般的かつ簡便である。リング状Re(I)多核錯体の価数を変えることで正の電荷はコントロールできるので、ポリ酸の負電荷に合わせることは容易である。その光機能の一例として、本年は光多電子蓄積能を見出すことができた。2種の超分子は、還元剤共存下Re錯体部を光励起すると順次的に3電子を1分子内に蓄積した。蓄積された3つの電子が有する還元力はそれぞれ異なっており、これまで数少ないが報告された光化学的な多電子蓄積系とは全く違う反応性を示す可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに確立した、Re錯体触媒部を有するリング状Re(I)多核錯体(Re≡Ring)およびリング状Re(I)四核錯体とへテロポリ酸との超分子複合体(Ring-XPOM: X = Si, Ge)のCO2還元光触媒反応への展開を試みる。Re≡Ringと還元剤を共存させた溶液にCO2雰囲気下可視光を照射することで、Re≡RingがCO2還元の超分子光触媒として機能するかを確認する。また、エチニル基の影響を調べるために、エチニル基をエチレン基まで還元する手法を確立することで飽和炭化水素基でリング部と触媒が繋がった4核錯体(Re-Ring)を合成する。この錯体のCO2還元触媒能を、上述したのと同様の反応条件で明らかにし、リング状Re(I)多核錯体を光増感部とする超分子光触媒の適した結合部位の構造に関する情報を得ることを目指す。 また、溶液中でも1:1錯合体を維持し、光化学的に3電子還元を受けることが明らかになったRing-XPOMを、各種錯体触媒と合わせ用いることで、新たなCO2還元光触媒系の構築を試みる。光電子移動を駆動するRing部と、多電子を蓄積する電子プールとして働くPOMが錯体触媒に2電子を順次的に効率よく渡すことができれば、これまで報告例のない機構と効率で進行する光触媒となる可能性がある。また、ポリ酸のヘテロ元素(X)を変えたRing-SiPOMおおよびRing-GePOMでは、POM部に蓄積された電子の還元力が大きく異なる。これを用いて、CO2還元触媒反応においてまだ明らかにされていない触媒の反応中間体の還元電位を特定することを目指す。
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