2019年度は、開発に成功した架橋窒素分子の切断反応を鍵段階として進行する新しい反応経路による触媒的アンモニア生成反応に関する研究成果を踏まえて、これまで比較的高価で合成する必要があった還元剤やプロトン源を、安価で入手容易な化合物を用いた新たな反応系の開発に取り組んだ。特にプロトン源としては、従来の反応系では窒素錯体との反応で容易に対応するオキソ錯体が生成することが知られている水を適用し、還元剤としては一電子還元剤として有機合成化学の分野で古くから利用されてきた二ヨウ化サマリウムを用いた触媒的アンモニア合成反応の検討を行った。その結果、短時間で超高速的にアンモニアが生成することを見いだした。モリブデン錯体の配位子としては、既に開発済のPCP型ピンサー配位子が最も有効であった。これらに加えて、古くから補助配位子として利用しされてきた単座ホスフィンや二座ホスフィン等の単純な配位子でも適用可能であることを新しく見いだした。触媒能はPCP型ピンサー配位子を用いた場合に比べて低い値に留まったが。古典的な反応経路であるチャットサイクルで触媒的アンモニア生成が進行していることを示す興味深い研究成果である。また、PCP型ピンサー配位子を有するモリブデン錯体を用いた触媒的アンモニア生成反応においては、反応のスケールアップの検討を同時に行った。1Lフラスコを利用したスケールで触媒的アンモニア生成反応を行い、90%に迫る高収率でアンモニウム塩が得られることを確認する事に成功した。
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