研究課題
生体内代謝反応では、数多くの化学反応が同時に、副反応を限りなく抑えて進行する。このような多段階の反応が並行、かつ選択的に進行する物質変換法は、現在の有機合成化学でもまだ開拓されていない。細胞内で特定の代謝経路に関与する酵素群は、決められた小器官中の区画(コンパートメント)で空間的に近接した酵素組織体を形成して、多段階反応を効率よく進行させる機構が知られている。代謝反応において、特定の区画内に形成される酵素高次構造体の特徴として、(1)異なる種類の酵素が近接して存在する、(2)酵素がいくつか集まった高次構造体が、秩序だったコンパートメントを形成することがあげられる。基質はコンパートメント内で、これらの酵素によって次々と化学変換されて最終産物へと変換される。この細胞内物質変換システムを試験管内で再現することができれば、高効率に多段階の物質変換をおこなう「分子コンビナート」、さらにナノ空間に分子コンビナートを内包した「複合触媒コンパートメント」が実現する。本研究では、これまでに平面状DNAナノ構造体を使って構築した「2D分子コンビナート」で得た人工代謝経路に関する知見をもとにして、3次元DNAナノ構造体を利用した「3D分子コンビナート」、そして「分子コンビナート」をナノリポソームに内包した「複合触媒コンパートメント」を構築する。これらを利用して、細胞外での多段階反応を効率的に進行させるための問題点として、(1)3D分子コンビナートでは、酵素をどのような空間に何分子ずつ配置すればよいか、(2)異なる「分子コンビナート」を並列させた人工代謝経路は構築できるか、(3)「分子コンビナート」をリポソームに内包した「複合触媒コンパートメント」で多段階反応の反応効率は向上するか、(4)ナノリポソームに膜輸送タンパク質を特定配向で導入し、基質を取り込んで反応できるかを解明する。
2: おおむね順調に進展している
① 「複合触媒コンパートメント」を構築するためのモジュール型アダプターの拡張申請者らが開発したC2H2型亜鉛フィンガーを用いたモジュール型アダプターzif-SNAPは、共有結合を介して、アダプターに融合したタンパク質・酵素を、短時間で定量的かつ安定に、DNAナノ構造体上の狙った位置に配置することができる(Chem. Commun. 2015, 51, 1016)。多種類のタンパク質・酵素を同時にDNAナノ構造体に配置するために、単量体酵素を配置するzif-SNAPに加えて、ロイシンジッパータンパク質GCN4に共有結合を形成するタグタンパク質SNAPタグ、CLIPタグ、Haloタグを組み合わせて、二量体タンパク質・酵素を配置するモジュール型アダプターを作製した。それぞれのモジュール型アダプターは、目的の塩基配列上に配置した基質と90%以上の収率で共有結合を形成した。②キシロースからキシルロース5-リン酸へと代謝する酵素カスケードの構築申請者らが2次元DNAナノ構造体上にキシロース還元酵素(XR)とキシリトール脱水素酵素(XDH)を配置して構築した(J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 3012)キシロースからキシリトールを経てキシルロースを生成する酵素カスケードをもとにして、キシルロースをキシルロース5-リン酸に変換するキシルロースキナーゼ(XK)を含む酵素カスケードを2次元DNAナノ構造体上に構築した。
①「3D分子コンビナート」による高効率化学反応キシロースからキシリトールを経てキシルロース、さらにキシルロース5-リン酸を生成する酵素カスケードをより高効率化する。酵素XR、XDH、XKのモジュール型アダプター融合体を3次元DNAナノ構造体上に配置した「3D分子コンビナート」を構築し、それぞれの酵素の「分子数」と「空間配置」が人工キシロース代謝経路の効率に及ぼす影響を評価する。②平成29年度に構築したの人工キシロース代謝経路と並列する代謝経路として、L-アラビノースからL-アラビトール、L-キシルロースを経てキシリトールを生成するL-アラビノース代謝系を細胞外で作製する。2次元DNAナノ構造体に、L-アラビノース還元酵素、L-アラビトール4-デヒドロゲナーゼ、L-キシルロース還元酵素を配置して、「人工L-アラビノース代謝経路」の効率を高める酵素群の配置・酵素の当量比を決定する。「3D分子コンビナート」を作製する際には、三角柱および円筒型の鋳型を用いて、3次元DNAナノ構造体の形状が酵素カスケード反応の収率と補酵素の再生に及ぼす影響についても評価する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 7件、 招待講演 2件) 備考 (4件)
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