研究課題/領域番号 |
17H01213
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森井 孝 京都大学, エネルギー理工学研究所, 教授 (90222348)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 人工代謝経路 / DNAナノ構造体 / 人工コンパートメント / 分子コンビナート / ナノリポソーム |
研究実績の概要 |
生体内代謝反応では、数多くの化学反応が同時に、副反応を限りなく抑えて進行する。このような多段階の反応が並行、かつ選択的に進行する物質変換法は、現在の有機合成化学でもまだ開拓されていない。細胞内で特定の代謝経路に関与する酵素群は、決められた小器官中の区画(コンパートメント)で空間的に近接した酵素組織体を形成して、多段階反応を効率よく進行させる機構が知られている。代謝反応において、特定の区画内に形成される酵素高次構造体の特徴として、(1)異なる種類の酵素が近接して存在する、(2)酵素がいくつか集まった高次構造体が、秩序だったコンパートメントを形成することがあげられる。基質はコンパートメント内で、これらの酵素によって次々と化学変換されて最終産物へと変換される。この細胞内物質変換システムを試験管内で再現することができれば、高効率に多段階の物質変換をおこなう「分子コンビナート」、さらにナノ空間に分子コンビナートを内包した「複合触媒コンパートメント」が実現する。 本研究では、これまでに平面状DNAナノ構造体を使って構築した「2D分子コンビナート」で得た人工代謝経路に関する知見をもとにして、3次元DNAナノ構造体を利用した「3D分子コンビナート」、そして「分子コンビナート」をナノリポソームに内包した「複合触媒コンパートメント」を構築する。これらを利用して、細胞外での多段階反応を効率的に進行させるための問題点として、(1)3D分子コンビナートでは、酵素をどのような空間に何分子ずつ配置すればよいか、(2)異なる「分子コンビナート」を並列させた人工代謝経路は構築できるか、(3)「分子コンビナート」をリポソームに内包した「複合触媒コンパートメント」で多段階反応の反応効率は向上するか、(4)ナノリポソームに膜輸送タンパク質を特定配向で導入し、基質を取り込んで反応できるかを解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①「3D分子コンビナート」による人工代謝反応の特性評価 キシロースからキシリトールを経てキシルロース、さらにキシルロース5-リン酸を生成する酵素カスケード反応を検証した。酵素XR、XDH、XKのモジュール型アダプター融合体を3次元DNAナノ構造体上に配置した「3D分子コンビナート」を構築し、それぞれの酵素の「分子数」と「空間配置」が人工キシロース代謝経路の効率に及ぼす影響を評価した。すでに作製した「六角柱3D DNAオリガミ」を用いて、酵素を配置した「平面状2D分子コンビナート」を「六角柱3D分子コンビナート」へと構造変換し、と3次元DNAナノ構造体の形状が酵素カスケード反応の収率と補酵素の再生に及ぼす影響についても評価した。その結果、カスケード反応に関与する酵素の触媒反応特性によって、分子コンビナートを3D化場合にカスケード反応効率が向上する場合と、変化しない場合があることがわかった。 ②ナノリポソーム中への「2D分子コンビナート」の導入 酵素XR、XDH、XKのモジュール型アダプター融合体が配置出来る3次元DNAナノ構造体を作製した。この3次元DNAナノ構造体をもとにして、その外側にナノリポソームが形成できることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
①「2D分子コンビナート」と「六角柱3D分子コンビナート」を用いてDNAオリガミ表面での構造変換をリアルタイムで検証する。その結果をもとにして、キシロースからキシリトールを経てキシルロース、さらにキシルロース5-リン酸を生成する酵素カスケード反応のうち、酵素間距離に依存するカスケードを用いてコンビナートの2Dから3Dへの動的な構造変化とコンビナート上の酵素カスケード反応の効率を関連付け、代謝カスケード制御法を確立する。さらに、3D分子コンビナートに酵素を密接させて配置した酵素反応を検証し、細胞内代謝カスケード作動原理に関する知見を得る。 ② 2Dナノ構造体を鋳型としてナノリポソームを形成させ、トランスポーターを導入したナノリポソーム構築法を確立するとともに、物質輸送能を備えたナノリポソームの化学特性を検証する。物質輸送能を備えたナノリポソームにキシロースからキシリトールを経てキシルロースを生成するカスケード酵素XRとXDHを導入した「複合触媒コンパートメント」を構築し、その代謝反応を評価する。
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