研究課題/領域番号 |
17H01216
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
嶺岸 耕 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (40512992)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 水素 / 太陽光 / 光触媒 / 光電気化学 / 人工光合成 / カルコゲナイド / 近赤外 / エネルギー変換 |
研究実績の概要 |
本研究においては太陽光と水のみから効率的に水素を製造する人工光合成反応系の構築を最終的な目標とし、主に「紫外~可視~近赤外域の光を効率的に利用できる近赤外光応答光電極の開発」、「近赤外光応答光触媒電極の低エネルギーロス化(高オンセットポテンシャル化)におけるキャリアダイナミクス解明と方法論の確立」、「波長分割型タンデム型水分解システム構築」に取り組んでいる。簡便な反応系で有意な太陽エネルギー変換効率、具体的には2%以上を得、本研究を通して得られた知見の有用性を示すとともに、エネルギー変換技術としてのポテンシャルを証明する。 平成29年度は近赤外光応答光電極の開発に大きな進展が見られた。具体的にはバンドギャップが1.4 eVと小さいにもかかわらず約0.9 V vs. RHEと高オンセットポテンシャル(高反応駆動力)を示す(ZnSe)0.85(Cu(In,Ga)Se2)0.15光カソードの表面修飾による高効率化、および、バンドギャップが1.5 eVと小さいにも関わらず、外部量子収率95%以上を示すCdTe光カソードの実現である。また、同じくCdTeを用いているにもかかわらず、オンセット電位が約0.4 V vs. RHEと低電位を示す、反応の駆動力が非常に大きい新構造の光アノードも実現している。近赤外域に吸収端を持つ光触媒性材料を用いているにも関わらず、上述のような優れた特性が得られたことは、光電極・光触媒反応のポテンシャルを反映している。 また、BiVO4光アノード(吸収端波長 約510 nm)と(ZnSe)0.85(Cu(In,Ga)Se2)0.15光カソード(吸収端波長 約900 nm)を用いてタンデム型水分解セルを構築、太陽エネルギー変換効率1.6%を得た。今後、更に研究を進めて光アノードと光アノードのみからなる簡便な系で2%以上の効率で水分解反応を実現することに取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」に記載したとおり、BiVO4光アノード(吸収端波長 約510 nm)と(ZnSe)0.85(Cu(In,Ga)Se2)0.15光カソード(吸収端波長 約900 nm)を用いてタンデム型水分解セルを構築、太陽エネルギー変換効率1.6%が得られており、本研究課題における目標値である2%まであと一息のところまで初年度中に達した。 また、吸収端波長900 nmの(ZnSe)0.85(Cu(In,Ga)Se2)0.15光カソードの高効率化のみならず、吸収端波長830 nmのCdTe光カソードにおいて外部量子収率95%以上での水素生成反応を得ることにも成功しいる。このように複数の材料系で顕著な進捗が見られているのは、近赤外光応答光触媒電極の高効率化に向けた方法論の確立も順調に進んでいるためであることの証左であると考えている。また、水素生成系と酸素生成系の両方に近赤外光応答を示すCdTeを用いて水の全分解反応を駆動することにも成功しており、低エネルギーロス化のアプローチの正当性も示せている。今後、更に深く検討を進めることで光電極・光触媒のエネルギー変換技術としての確立を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
前述の通り、平性29年度までに「紫外~可視~近赤外域の光を効率的に利用できる近赤外光応答光電極の開発」、「近赤外光応答光触媒電極の低エネルギーロス化(高オンセットポテンシャル化)」、「タンデム型水分解システム構築」全てにおいて進捗が見られた。一方、高量子収率と低エネルギーロス化(高オンセットポテンシャル化)が未だ十分に両立していない、タンデム型セル構築に適した酸素生成系の選択肢が限られるといった課題が明らかになっている。 この様な状況を受けて、平成30年度以降は「高量子収率と低エネルギーロス化(高オンセットポテンシャル化)の両立」、「新規酸素生成系の構築」を中心に取り組む。まずは目標値を達成し、光電極・光触媒反応のエネルギー変換技術としての確立、および学術的発展に寄与するよう最大限努める。
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