研究課題/領域番号 |
17H01220
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中條 善樹 京都大学, 工学研究科, 名誉教授 (70144128)
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研究分担者 |
田中 一生 京都大学, 工学研究科, 教授 (90435660)
権 正行 京都大学, 工学研究科, 助教 (90776618)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | POSS / ハイブリッド / フィラー |
研究実績の概要 |
A. デザイナブルハイブリッドによる耐熱性構造色材料開発 POSS元素ブロックのハイブリッド化によって高次構造体に熱安定性を付与することと、これらの構造に由来する新機能を得ることで「デザイナブルハイブリッド」となる材料を作製した。具体的には、広い温度領域で使用可能な構造色材料の開発を行った。これまでに我々はPOSS核を有する高分子が高い熱安定性を有し、特にPOSS核による機械的特性の向上と、一方で分子全体が規則構造を形成することによる相転移に伴うエントロピー低下から、熱分解温度の上昇を観測した。一般的な構造色材料では加熱により分解が起こり、色彩の劣化が引き起こされる。今回開発に成功したPOSS構造色材料の熱物性はPOSS特有のものだと考えられる。一方、熱力学的パラメータ算出など、基礎物性評価は行えていない。そこで、異なる構造のPOSS含有高分子を合成し、熱物性の評価に取り組んだ。現在、構造と熱物性の差について検討を行っており、詳細な解析を行うことでPOSSの効果について明かとする。 B. 分子フィラーによる相反関係両立とデザイナブルハイブリッドの適用範囲の拡大 高フッ素化ポリマーは低屈折率材料として有用であるが、フィラー適用も困難であった。したがって、耐久性の付与やさらなる低屈折率化は難しい。そこで、これらを可能にするPOSSを基盤とした分子フィラーを設計し、合成を行った。POSSに立体置換基を導入することで周囲に疎な空間を作り出し、低屈折率化を引き起こすことを確認した。加えて、高屈折率化のフィラーについても合成を進めた。重元素をPOSS上に集積することで光分散性は抑えつつ、高屈折率化を効果的に行うことを目的として設計を行った。現在、プロトタイプの分子フィラーの合成を達成しており、実際に所望の物性を観察するに至った。今後、これらの構造を足場とし、機能の最大化を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヘテロ元素によって構成される機能の最小ユニットを元素ブロックと呼び、本研究では材料構築の足場となるそれぞれの新規元素ブロックの合成と、それらを連結することで材料を得ることが技術的に最も困難であると考えられた。一方、有機金属錯体をはじめ、元素ブロック候補となる物質は、ヘテロ元素に由来した安定性の低下や、また、逆に反応性が乏しいために材料化が困難であることが想定された。したがって、それらの課題を克服した汎用性のある元素ブロック合成に研究期間を多く取られることを予想していた。本年度においても、新規元素ブロックの合成と高分子化、複合化などの材料を得ることについて重点的に研究を進めてきた。その中で、各テーマについて予想よりも早く合成目標の元素ブロックを得ることができた。さらに、それらが大気中でも安定であることに加え、材料化のための各種反応時においても分解など起こらず、様々な解析を容易に行うことが可能であった。さらにそれらを用いた元素ブロック材料からは目的となる機能が得られ、プロトタイプとしてさらなる段階の応用などを視野に入れることができている。特に、材料合成を比較的スムーズに達成することができたことから、物性解析を重点的に行うことで、新たな物性探索を行うこともできた。そのため、目標となる物性以外にも新しい物理現象を発見したことや、新奇の化学原理につながる実験データを取得することができた。 例えば、POSSの構造色材料を合成していた際、伸長させることで色変化が見られた。その光学特性を詳細に調べた結果、POSSが励起状態の分子も著しく安定化することで、新たな光学プロセスが生まれ、その結果、変色が見られたことが明らかとなった。これらを制御することで刺激応答性構造色材料など、僅少な材料を新原理で得られる可能性が出てきたことから、本年度は予想以上に研究が進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
A. デザイナブルハイブリッドによるイオン性ネットワーク開発 POSS元素ブロックのハイブリッド化によって高次構造体に熱安定性を付与することと、これらの構造に由来する新機能を得ることで「デザイナブルハイブリッド」となる材料を作製する。具体的には、広い温度領域で使用可能なイオン性ネットワークの開発を行う。イオン性液晶の熱安定性の評価及び光学特性について更なる展開を目指して、カチオン部位を二官能性基に変えることでネットワーク化し物性を調べる。得られたイオン性ネットワークの特性を比較すると共に、特に熱力学パラメータの算出により、POSSの特徴であるエントロピー低下を確認することで、構造に由来した物性発現を確認する。 B. 分子フィラーによる相反関係両立とデザイナブルハイブリッドの適用範囲の拡大 昨年度と同様に、フィラー開発を進める。高フッ素化ポリマーは低屈折率材料として有用であるが、製膜性が低く、ハイブリッド化のみならず、フィラー適用も困難であった。したがって、耐久性の付与やさらなる低屈折率化は難しい。そこで、これらを可能にするPOSSを基盤とした分子フィラーを設計し、プロトタイプの分子を合成することができた。本年度はこの構造を足場とし、更に高機能性の分子を開発する。ここで、耐熱性や機械的特性の低下が引き起こされると考えられる。これを補うために頂点の一ヶ所から高フッ素化ポリマーを伸長し、マトリックスと相互作用を起すことで耐久性損失を補填できると考えた。本研究ではこれまでハイブリッド化が困難であった素材にもPOSS元素ブロックを用いることで容易に機能化が可能であることを示す。各種測定によりPOSSの効果を実証する。特に、理論的には低屈折率値が予測されているが、機械的物性の乏しさから光学材料として使用困難な高フッ素化ポリマーについて、さらなる低屈折率化が可能であることを示す。
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