研究課題/領域番号 |
17H01225
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
大野 弘幸 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 学長 (00176968)
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研究分担者 |
藤田 恭子 東京薬科大学, 薬学部, 講師 (90447508)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イオン液体 / 水和状態 / 生体内環境 / タンパク質 / 相転移 |
研究実績の概要 |
凝集したタンパク質を高濃度で溶解し、そのまま条件を変えることなくリフォールディングを可能にする水和イオン液体について、今年度はさらに機能改善を進めた。種々のイオン液体(IL)を使用し、水を添加して比較したところ、凝集タンパク質の溶解にはアニオンよりもカチオンの影響が大きいことを見いだした。また、カチオンの総アルキル鎖長が凝集タンパク質溶解の重要な因子の一つであることも実験的に示した。さらに、水和ILの含水量を増大させるにつれ、凝集タンパク質の溶解度が低下することを見出した。選択されたイオンを用い、適切な含水量に調整した水和ILを用いることで、種々の凝集タンパク質を高濃度に溶解可能であることを確認し、学術論文として報告した。 また、下限臨界溶解温度(LCST)型の相分離挙動を示すIL/水混合系において、相溶状態を経て二相分離させることで、種々のタンパク質が一方の相に分配されることを報告してきた。チトクロムc(cyt.c)は、その酸化還元状態により各相への分配率が大きく異なることが経験的に認められていたので、Cyt.cの酸化還元状態を電位で、IL/水の相状態を温度で制御することで、cyt.cの水相とイオン液体相における分配率を制御することができた。 さらに、LCST型のILを高分子化することで、温度に応じて水との親和性を自由に制御できる高分子電解質を改良し、緩衝液中でもイオン交換しないゲルの設計を行った。リン酸緩衝液の構成成分と同じリン酸二水素をアニオンに有するポリカチオン型高分子電解質ゲルを作成し、ミオグロビンとcyt.cの吸脱着挙動を分光学的に解析した。その結果、温度に応じた吸脱着挙動が観察でき、その温度応答性はタンパク質の特性を反映して異なることを認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目も計画通りに研究を推進することができた。さらに、一部の実験では計画を超えた知見も得られた。 凝集タンパク質を高濃度に溶解し、条件を変えることなくリフォールディングを可能とする水和イオン液体の構造や含水率について詳細な知見をまとめることができた。カチオン種、特にカチオンの総アルキル鎖長が溶解度に大きく影響することを明らかにできた。水和イオン液体を用いて溶解、リフォールディングさせた凝集タンパク質の活性が回復していることから、凝集状態から分散状態に移行し、さらに本来の高次構造にまで回復していることが強く示唆された。また、水和イオン液体の中性子散乱測定から、凝集体を高濃度で溶解するイオン液体中では水の構造形成を示す結果が得られた。構造形成とタンパク質溶解能の関連は次年度の課題とした。 温度に応答して水和状態が変化する高分子電解質ゲルを改良し、緩衝液中でもイオン交換せず、繰り返し温度応答性を示すゲルを作成した。このゲルを用いて、タンパク質の吸脱着を検討したところ、温度に依存した吸脱着挙動が確認でき、選択分離の可能性が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
凝集タンパク質を高濃度に溶解し、リフォールディングも可能にするイオン構造が明らかになったので、種々の凝集タンパク質への適応を意識しつつ、ポリマー化や低密度ゲル化を検討する。その際に、共存する水の構造形成を保持できるよう高次構造の検討も行う。タンパク質の大きさや表面電荷密度などの性質によっては、異なるイオン構造の選択が必要になると考えられる。これらを考慮しながらターゲットとするタンパク質を選択し、溶解後のタンパク質の構造や活性の変化あるいは維持を確認しながら適切な水和イオン液体構造の知見集積を行う。 また、温度に応答してタンパク質を吸脱着できるゲルについて、3次元から2次元への次元制御を行う。具体的にはゲルの成分を薄いシート状にしたり、ガラス基板またはビーズにオリゴマー状のイオン液体を固定したりする。こうして得られたイオン液体層の水和状態の温度応答性を評価した後、タンパク質を含む生体分子との親和性を評価し、選択的吸脱着や他の機能化を検討する計画である。すでに明らかにしている金属イオンの吸脱着系をさらに掘り下げ、相転移に伴う配位状態やエネルギー変化が金属イオンの濃縮・放出に及ぼすメカニズムを解明することにも注力する。
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