研究実績の概要 |
本年度、これまでの研究により得てきた高効率熱活性遅延蛍光(TADF)材料の開発手法をさらに高度化した。TADFにおいては逆項間交差(RISC)過程が極めて重要であるため、RISC速度を向上させる設計指針を新たに構築し、その指針に基づいた新規有機材料の合成、物性測定を行った。その結果、設計通り1.2 x 10^7 (1/s)という極めて大きなRISC速度定数を得た(Wada et al., ChemRxiv, 2019, https://doi.org/10.26434/chemrxiv.9745289.v1、査読付き論文投稿中)。これは、C,H,Nのみから構成される材料の中では世界最高値である。その他、新規TADF材料の開発とそのデバイス化を進めた(Zhang et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 11, 7192-7198 (2019); Cai, M. et al. ACS Appl. Mater. Interfaces, 11, 1096-1108 (2019)など)。マルチスケールシミュレーションについては、これまで構築してきた手法を有機EL発光層で用いられるホスト-ゲスト系に展開し、ゲストとなる発光分子が、ホスト分子の電荷輸送特性にどのような影響を与えるかを明らかにした。動的核偏極(DNP)-NMR関しては、デバイス駆動下、光照射下における動的核偏極DNP-NMR測定のためのプローブを設計・構築し、その運用を開始し始めた。また、NMR測定で問題となる低いS/N比の問題を改善するため、多変量解析手法を利用したノイズ低減法を開発した(Kusaka et al., J. Phys. Chem. A, 123, 10333-10338, (2019))。この手法はDNP-NMRと併用可能であることから、さらなる感度向上が可能となる。
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