研究課題/領域番号 |
17H01232
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
安達 千波矢 九州大学, 工学研究院, 教授 (30283245)
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研究分担者 |
合志 憲一 九州大学, 工学研究院, 助教 (50462875)
中野谷 一 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90633412)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機EL / OLED / 熱活性化遅延蛍光 / TADF / スルースペース |
研究実績の概要 |
熱活性化遅延蛍光材料(Thermally-activated delayed fluorescence: TADF)を有機EL(OLED)の発光材料とすることで、内部量子効率100%に達する高効率ELを青~赤色の可視領域に渡り実現することができる。OLEDの実用化に向けては、高効率化のみならず素子耐久性の確保が重要な技術課題であるが、TADF-OLED、特に青色TADF-OLEDの素子耐久性には多くの課題が残されている。このような状況を鑑み、本研究では、新奇分子骨格の探索および物性・素子評価を通し、これらの課題を克服可能な分子の創製を目的として研究を推進している。 TADF特性は一般的に小さな三重項励起状態と一重項励起状態間のエネルギー差:Delta ESTを実現することにより発現する。そのため広く受け入れられている分子デザインの指針は、電子ドナー(D)と電子アクセプター(A)基を一分子中に含む化合物設計であり、それらはある化学結合を介して電荷移動(CT)励起状態を形成することができ、高効率なTADFを発することが可能となる。しかし化学結合を介したCT励起状態の形成では、完全なCT状態を達成することは困難であり、究極的に小さなDelta ESTを得ることはできない。そこでH30年度は化学結合を介さないCT励起状態の形成を実現するため、DおよびA基が空間的に分離されたスルースペース(Through-space; TS)型TADF分子を新たに合成するとともに、その詳細な光物性について検討を実施した。その結果、dithia[3.3]paracyclophane基を介してDとA基がCT励起状態を形成可能であり、そのDelta ESTは50meV以下と極めて小さな値を示すことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
OLEDの素子耐久性を向上させるためには、素子駆動中に生成する化学的に活性な三重項励起子の密度を極力低減することが極めて重要である。TADF材料は、電流励起により生成する三重項励起子を熱的に一重項励起子へと逆項間交差(RISC)させ、そのエネルギーを蛍光として利用する過程である。そのため、素子駆動中に蓄積する三重項励起子の密度は、逆項間交差過程の速度定数に大きく依存し、極力大きなRISC速度定数を達成することで素子に蓄積する三重項励起子密度を低減できる。この速度定数はDelta ESTに強く依存するため、極めて小さなDelta ESTを実現することできれば、大きなRISC速度定数を得ることができる。そこで、H30年度はスルースペース(Through-space; TS)型TADF分子を新たに設計・合成するとともに、その詳細な光物性について検討を実施し、dithia[3.3]paracyclophane基をスペーサー基、シアノ基およびトリフェニルアミン基をそれぞれA基、D基として有する化合物において極めて小さなDelta EST(50 meV)が達成可能であることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降の研究方策としては、今年度までに見出したTS型TADF分子骨格をベースとし、網羅的なDおよびA基の探索を進めるとともに、その光学物性ならびにOLED特性について詳細な検討を進める計画である。
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