研究課題/領域番号 |
17H01239
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平方 寛之 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40362454)
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研究分担者 |
近藤 俊之 大阪大学, 工学研究科, 助教 (70735042)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナノマイクロ材料力学 / 破壊力学 |
研究実績の概要 |
本研究は,透過型電子顕微鏡(TEM)によるその場観察クリープ実験方法を開発して,局所力学場を制御した種々のクリープ実験を実施することにより,金属ナノ構造体特有のクリープ機構を解明して,クリープ破壊の力学基盤を構築することを目的とする.本年度の研究実績は以下の通りである. 1.その場TEM観察クリープ実験方法の開発:高分解能TEMによる金属ナノ構造体に対するその場観察引張クリープ実験方法を開発した.TEM内で静電気力負荷方式による力学試験が可能であるその場TEM 観察力学試験装置を導入した.本装置は,静電気力型微小荷重負荷装置,および試験片位置決め用XYZピエゾステージから成る.本装置を用いてナノ構造体に対する純粋な引張クリープ試験を実施するため,導電性ダイヤモンド製グリッパーを用いたナノ構造体に対する引張負荷試験方法を開発した.実験システムの整備・調整を行うことにより,引張試験ならびにクリープ実験の実施を可能にした. 2.ナノ試験片作製技術の確立:供試材として,TEMによる透過像の観察が容易であり,かつ低融点(933 K)のため室温で拡散が活発であるAl,および酸化層の影響を排除できるAu(融点1337 K)を検討項目に応じて適宜用いた.試験片は,バルク材から集束イオンビーム(FIB)加工システムを用いて加工した.各供試材に対して,寸法・形状を変えた所望の試験片を加工するための最適な加工条件を検討した.さらに,加工した試験片をピックアップして,その場TEM観察力学試験装置の試料ステージに固定する技術を確立した.試験片のピックアップにはナノ試験片加工システムに設置済のマニピュレータを用い,ガスインジェクションシステムによるFIB誘起W蒸着により試料ステージに固定した.これらの装置による試験片のピックアップ・固定の最適プロセスを検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画していた,1.その場TEM観察クリープ実験方法の開発,ならびに,2.ナノ試験片作製技術の確立を概ね計画通りに遂行できた.1.において,試験システムで採用した静電容量型変位センサーの熱ドリフトにより変位測定の精度が十分でないことが判明した.そこで,その場TEM観察像を基に試験片の伸びを評価する手法を確立して,十分な精度でのひずみ評価を可能にして上記問題点を克服した.2.においては,FIB加工とマニピュレータにより試験片の加工,および実験システムへの設置を可能にした.これらにより,単結晶Al試験片に対する引張試験およびクリープ試験の実施が可能になった.
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今後の研究の推進方策 |
整備した実験システムを用いて,局所力学場を制御した種々のナノ試験片に対するクリープ実験を実施する.また,実験システムに組み込んだ試料加熱機構を用いて高温下での試験を実現する. 1.実験方法:転位等の内部欠陥の役割を解明するため,これらの観察に最適なTEM観察条件を検討する.また,FIBによって生じる加工損傷層の影響を評価して,必要に応じて0.5 kVの低エネルギーArイオンエッチングにより加工損傷層を除去するなどの対策を施す. 2.クリープ変形機構と支配力学の解明のための各種クリープ実験:その場TEM観察クリープ実験方法によりナノ試験片に対するクリープ実験を実施する.着目する現象に応じて,試験片寸法・形状と内部構造(粒界の有無)を意図的に変えた試験を行う.単結晶Alを供試材として,電子の透過性を考慮して試験片幅・厚さを100 nm~1000 nmの範囲で変えてクリープ変形特性に及ぼす寸法効果を解明する.また,変形の局所化と転位の挙動に着目して,断続的なひずみ急増のメカニズムを検討する.さらに,試験片に単一の粒界(または双晶境界)を導入した双結晶試験片を作製して,クリープ特性に及ぼす粒界の役割を解明する. 3.加熱機構付試料ステージによる高温下クリープ実験:高温下でのクリープ特性を解明するため,その場TEM 観察クリープ実験システムに,試料加熱機構を組込み調整を行う.本加熱機構は,400℃までの昇温が可能な金属薄膜製の抵抗加熱ヒーターと測温抵抗体温度計から構成され,温度のフィードバック制御が可能である.本装置を用いて,高温下で安定したクリープ実験を行うための基礎検討を行う.とくに,グリッパーと試験片の接触後に長時間の安定化期間を設けるなど,十分なドリフト低減をはかる.
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