研究課題/領域番号 |
17H01243
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
福澤 健二 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (60324448)
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研究分担者 |
伊藤 伸太郎 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (50377826)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナノトライボロジー / 潤滑 |
研究実績の概要 |
ナノすきまの流体潤滑現象を,潤滑剤分子の流れを定量化することで解明することを目的としている. (1)ナノすきまの圧力流れ計測:蛍光計測を用いた流れ計測法 微小すきまでの流体特性は,すきまに大きく依存するため,流れ計測には,すきま(深さ)一定の流路が必須である.前年度までに確立した要素技術をナノ流路に適用した.フォトリソグラフィーと集束イオンビームエッチング法を用いて,シリコン基板中にマイクロからナノ深さの段差部を含むマイクロ流路を作製し,陽極接合法によりガラス基板を接合することで,ナノ流路付きのマイクロ流路デバイスの作製に成功した.また,1分子レベルの蛍光分子の蛍光強度の時間変化を計測する方法を用いて,潤滑油中の蛍光分子の運動から潤滑油の粘度の定量化を試みた.流路の深さを浅くすると,蛍光分子の吸着の影響が大きくなることなどナノすきま計測における課題を明らかにした.さらに,圧力流れ計測に必要な,ポンプ,制御系等の計測系の構築に着手した. (2)ナノすきまのせん断流れ計測:力・すきま同時計測法 エリプソメトリー顕微鏡を用いたせん断力・すきま同時計測系の構築に着手した.本計測においても,すきま一定の条件で行うことをねらいとしている.そこで,球面と平面から成る摺動面は,比較的高い荷重で摺動したとき,弾性変形により互いに平行な平坦部を形成するので,すきま一定の平行平板摺動面でせん断した時の摩擦力と等しい.ナノすきまの計測としては,これまで研究を進めてきたエリプソメトリー顕微鏡を用いた.さらに偏光状態の分布を輝度に変換し明暗像として得ることにより,すきま形状を確認した.せん断力計測は,摺動子を平行板ばねで支持し,摺動時のばねのたわみをレーザ変位計で計測しせん断力を定量化した.構築した計測系によりせん断力・すきま同時計測が原理的に可能であることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロ流路デバイスを用いた微小すきまにおける潤滑剤分子の流れ計測法では,前年度までに構築した要素技術をナノ深さ流路に展開し,ナノ深さ流路での計測の課題を明らかにできた.また,せん断力・すきま同時計測系の構築に着手し,せん断力とすきまの同時計測が可能であることを確認した.このようにおおむねねらいを達成することができた.これに加えて,当初想定していなかった課題を明らかにすることができた.詳細は以下のとおりである. (1)ナノすきまの圧力流れ計測:蛍光計測を用いた流れ計測法 前年度までに確立したマイクロマシン技術を用いた作製法をナノ深さ段差付きマイクロ流路に適用して,ナノ深さの流路を有するマイクロ流体デバイスを形成できることを明らかにした.また,作製した流路に蛍光強度の時間的な変化を計測し潤滑剤の粘度を定量化する方法を適用した.これにより,蛍光分子の吸着という課題を明らかにした.さらに,マイクロ流路デバイスを用いた圧力流れ計測系の構築に着手した (2)ナノすきまのせん断流れ計測:力・すきま同時計測法 エリプソメトリー顕微鏡を用いたせん断力・すきま同時計測系の構築に着手した.せん断力計測は,摺動子を平行板ばねで支持し,摺動時のばねのたわみから,せん断力を定量化した.計測系を構築し,せん断力・すきま同時計測が原理的に可能であることを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
ナノすきまの圧力流れ計測のためのマイクロ流路デバイスを用いた微小すきまにおける潤滑剤分子の流れ計測法では,これまでにナノ深さ流路計測の課題を明らかにした.また,ナノすきまのせん断力・すきま同時計測法では,計測系の構築と原理確認に成功した.この結果を受けて,今年度は以下の研究項目を実施する. (1)ナノすきまの圧力流れ計測:蛍光計測を用いた流れ計測法 ナノすきま計測で課題となった蛍光分子の吸着の対策を検討し,蛍光分子の選定を含めた計測系の見直しを実施する.現在,自然拡散状態の分子の運動を計測しているため,吸着する分子が多くなった可能性もある.前年度までに構築に着手した圧力印加による流れ計測においては,状況が改善する可能性も予想されるので,圧力流れ系の構築も並行して進める.比較的すきま(深さ)の大きな流路から小さな流路へと研究を進め,原理確認を優先する. (2)ナノすきまのせん断流れ計測:力・すきま同時計測法 これまでに構築したエリプソメトリー顕微鏡を基にした,力・すきま同時計測法を用いたせん断流れ計測の研究を進める.球面状の摺動面を持った摺動子を,水平・鉛直方向に変形する二組の板ばねで支持する構造とし,板ばねの変位をレーザドップラ振動計やレーザ変位計で測定する.ナノすきまでの潤滑剤分子は,マクロすきまと異なり,粘性流体でなく粘弾性流体として挙動する可能性がある.その場合,発生するせん断力は,せん断流れによる粘性抵抗力だけではなくなる.これを明確にするため,板ばねの機械特性を調整し,正弦波加振したときの振幅・位相応答を定量化する. 以上の二つの計測を用いて,ナノすきま潤滑現象解明についての基礎的な知見を得る.
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