研究課題/領域番号 |
17H01248
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
長坂 雄次 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (40129573)
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研究分担者 |
田口 良広 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (30433741)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 熱工学 / 熱物性 / 熱伝導率 / フォノン |
研究実績の概要 |
●超伝導薄膜の面内方向熱伝導率の高感度センシング 超伝導薄膜の熱伝導率異方性を高感度にセンシングするためには,均一なメンブレン構造を形成する必要がある。本年度は,超伝導薄膜の基板材料に着目し,感度を飛躍的に向上させる新しいメンブレン構造形成技術を提案・開発した。まず,異方性センシングに適したメンブレン領域の大きさを決定するために,感度解析を行った。次に,メンブレン構造を形成するファブリケーションプロトコルを確立した。特に、本デバイス専用のウェットエッチング装置を独自に開発し,所望のメンブレン構造を形成することに成功した。作製したデバイスを用いて室温で面内方向の熱伝導率測定を行い,提案手法の妥当性を検証した。さらにクライオスタットを用いて熱伝導率の温度依存性センシングへの適用性を実験的に明らかにした。 ●セミクラスレートハイドレートの相変化・熱伝導率同時センシング セミクラスレートハイドレートは水分子によって作られる籠状格子の中に他の分子(ゲスト分子)が非対称に包接された構造を持つ結晶物質であり,ラットリング現象によって特異な熱輸送性質を有すると考えられている。本年度は,パリレンを蒸着した非定常細線プローブによってセミクラスレートハイドレートの熱伝導率‐温度依存性を高感度に測定可能なシステムを構築した。特に,水和数に応じた結晶状態と熱伝導率の相関が明らかになっていない。そこで,まず特定の水和数に着目した純度の高いセミクラスレートハイドレートを生成する結晶化技術を構築した。次に,観察用石英窓を有する非定常細線用チャンバーを構築し,セミクラスレートハイドレートの結晶成長をリアルタイムに観察し,相変化温度をまたぐ広範な温度域で熱伝導率測定を行った。また,構築したシステムの妥当性を検証するために,トレハロース水溶液の熱伝導率‐温度依存性センシングを行い,不確かさ評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度は,当初計画していた研究実施項目に関して全て達成することができている。超伝導薄膜の面内方向熱伝導率測定技術の開発に関しては,従来技術では加工が難しいペロブスカイト構造基板上のYBCO超伝導薄膜メンブレン構造を形成することに初めて成功しており,高感度な熱輸送性質センシング手法を構築することができた。さらに,優れた臨界電流特性を有するDyBCO超電導薄膜について,提案手法を用いて熱伝導率測定が可能であることを実験的に明らかにしており,当初の計画以上に進展している。 また,パリレン蒸着による絶縁処理を施した非定常細線プローブを用いて,トレハロース水溶液の過冷却状態,ガラス状態における熱伝導率測定に初めて成功しており,本研究課題は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,ナノデバイスの劣化メカニズムの解明を目指し,過年度までに開発してきた革新的センシング手法を不確かさ・感度・空間分解能・時間分解能の面で深化させ,劣化加速試験を実施する。また,提案するフォノンスペクトロスコピー技術の妥当性を検証するために,超伝導薄膜の熱伝導率‐温度依存性データを取得し,フォノン熱伝導モデルからフィッティング解析の適用を目指す。
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