研究課題
本研究では、大気圧放電プラズマで発生するOHラジカルが,比較的長い時間にわたり反応に寄与していることに着目して、反応メカニズムの解明とその応用としての水処理について研究を行っている。研究2年目では、化学プローブ法と電子スピン共鳴法の2つを使い、放電プラズマで生成したOHラジカルの測定を行った。大気圧放電プラズマの発生には、液体と相互作用させる上で安定なプラズマが得られるプラズマジェットを主に使用した。OHラジカルの絶対量算出のための校正方法を見直し、信頼性ある校正曲線を得た。液体試料が中性の条件では、化学プローブ法による蛍光分光法と電子スピン共鳴法で求めたOHラジカル量はほぼ一致した。液体試料のpHがアルカリ性になると、化学プローブ法による測定ではOHラジカルは増加し、文献で指摘されている増加を支持する結果であった。しかし、電子スピン共鳴法では、逆に減少する傾向にあった。トラップ剤とラジカルの反応過程の違いや液体に含まれる第3物質が影響していると考えられるが、引き続き検証する。応用としては、次世代の水処理に放電プラズマによるプロセスを導入するための研究を行っている。これまでの研究より高効率化が望める処理水を水膜状にして連続処理できる放電プラズマリアクタを用いて各種の実験を実施した。付加製造装置(3Dプリンタ)を用いて、リアクタ内部に水をジェット状の旋回流として導入する装置を作製し、リアクタ内壁に付加した水流の旋回ガイドによるコアンダ効果によりプラズマとの接触を効果的に行うことができた。さらに放電を連続して処理するこれまでのプロセスに放電休止時間を導入することで一層の処理効率の向上が可能となった。長寿命ラジカルによるポストディスチャージ効果の有用性を見いだした。色素インジコカルミンを用いた着色水の脱色実験において、エネルギー効率は200g/kWhを越えるまでになった。
2: おおむね順調に進展している
本研究におけるラジカル計測の柱となる計測装置である電子スピン共鳴装置の稼働が本格化してきた。化学プローブ法とのクロスチェックが可能となり、計測条件(溶液の導電率、pH、トラップ剤の濃度など)を変化させて測定を行っている。さらに、短寿命ラジカルの長寿命化に関係する準安定分子の計測に関する研究が新たに開拓されてきた。放電雰囲気の主成分である窒素について、レーザー誘起蛍光法により準安定窒素分子を準大気圧窒素雰囲気の限定された条件のもとで可視化することに世界で初めて成功した。今後は、気中での測定と液中および界面の測定を行い、プラズマによりラジカル反応の全体像を明らかにしていく。水処理応用においては、放電プラズマリアクタの改良が進んだ。コアンダ効果を利用した流体制御が、処理時間の短縮やエネルギー効率の改善に有効であることが明らかになった。また、放電を連続的に行うよりも休止時間を設けた間歇的な運転の方が、エネルギーの節約になり、エネルギー効率も増加することがわかった。これらの効果により、有機染料が含まれる水の高速処理が可能となり、そのエネルギー効率も格段に向上している。今後の改良や工夫において、次世代の水処理プロセルとしてプラズマを使用することへの期待できる状況にある。これらの成果は、国内外の学会や論文で報告する以外に、イノベーションジャパン(2018年8月30日、31日、東京ビッグサイト)において、実機をデモすることで、広く社会・国民に発信することができた。
プラズマ(パルスコロナ、バリア放電、プラズマジェット)の違いによるOHラジカル生成量を評価し、応用との関係を明確に提示する。活性なラジカルの長寿命化という視点では、連鎖反応や2次反応の重要性がわかってきたので、それを積極的に取り入れた生成プロセスを構築する。ラジカル生成において、制御できるパラメータである電極形状、電源(方式、電圧-電流、周波数)、ガス(種類と流量)、および水との接触方法の最適化を行う。生成量をこれらパラメータで推定できる実験式を求める。さらに、気液界面での現象に関連して、多くの研究者から解明が求められているOHラジカルについて、気中で発生したOHラジカルが液体表面に輸送されて反応に寄与するのか、プラズマが気液界面の水を解離して生成するOHラジカルがそのまま水の表面で反応に寄与するのか、この疑問に明確な答えを出す。応用に関しては、これまで2年間の研究で、処理水のプラズマへの接触方法と水やガスの流体的な振る舞いに処理効率が大きく左右されることがわかっている。特に、液体がリアクタ側面に張り付くようにすることが有効である。その際に水膜の厚さとラジカルの浸透深さの関係など界面現象的な視点からも検討する。これはコアンダ効果として空気流の制御には産業的にも利用されているが、水処理プロセスでの導入例はなく、この発見を積極的に取り込み、産業応用の視点でリアクタの開発を行う。また、現行の水処理プロセスとの比較も含めてプラズマの利点や特徴を整理し、総合的な水処理プロセスにおける放電プラズマの活かし方について検討する。
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International Journal of Plasma Environmental Science & Technology
巻: 12 ページ: 44-48
Journal of Applied Physics
巻: 124 ページ: -
10.1063/1.5025376
http://elecls.cc.oita-u.ac.jp/plasma