研究課題/領域番号 |
17H01265
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
内藤 裕義 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90172254)
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研究分担者 |
麻田 俊雄 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10285314)
池田 浩 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30211717)
八木 繁幸 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40275277)
小関 史朗 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80252328)
松井 康哲 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (90709586)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 逆構造有機発光ダイオード / 新規塗布型発光層 / 量子化学計算 / 有機合成 / デバイス物理 |
研究実績の概要 |
遅延蛍光過程を解釈するために、各分子の基底状態および励起状態における構造と振動解析を実行し、さらに無輻射遷移の速度および輻射遷移によるスペクトルを記述するためのプログラム作成を行った。発光層ホストマトリックスに関して、理論的に電荷移動度を算出するための基盤となる、統計論に基づく電荷移動度予測の新規な理論的手法として、Successive Conduction (SC)モデルを開発した。SCモデルの特徴は、統計誤差が小さく、高速かつ高い信頼性をもつ点にある。これにより、正孔輸送部位と電子輸送部位を有する分子についても高速計算が可能となった。 りん光発光材料については、直交系溶媒への溶解を可能にする分子修飾を施した、有機白金(II)および有機イリジウム(III)錯体を開発し、溶液塗布による積層型素子の作製に成功した。発光層ホストマトリクスに関しては、高い三重項準位をもつカルバゾール誘導体をビニル官能基化し、ラジカル重合による高分子化を試みた。また、溶液塗布型素子を指向した低分子電子輸送性ホスト材料の開発に成功した。 ビフェニル置換したメチレンシクロプロパン誘導体の薄膜を作製し、ホスト材料からの励起エネルギー移動が起こることを確認した。OLEDを試作したところ、エネルギー移動によりビラジカルが発生し、赤色ELを示した。スルホニル基を有する新規TADF材料を合成し、溶液および固体で緑色発光を示すことを明らかにし、塗布法により作製した逆構造OLEDが緑色ELを示すことを確認した。 逆構造OLEDの電子注入層として用いられているポリエチレンイミンの電子注入機構を明らかにした。TADF材料をPMMAに分子分散させた発光層を塗布法で製膜し、逆構造OLEDを作製した(外部量子効率12%を達成した)。逆構造OLEDにおいてインピーダンス分光から二分子再結合定数を決定する手法を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TADF分子におけるCz基、CN基の構造上の位置と発光速度の関連を明らかにするために、最も簡単な系である、o-CzBN、m-CzBN、p-CzBNに加えて、参考分子としてPhCzを取り上げ、吸収スペクトル、発光スペクトルおよびISC速度定数(rISC速度定数も)を理論的に考察し、現在、論文執筆中である。電荷移動度を高速に予測することが可能な独自の理論(SC法)を開発することに成功した。SC法はパラメータフリーな手法であり、分子構造を与えれば理論計算のみで、電荷移動度を見積もることが可能となる。任意の分子について、高速に適用できる環境を整え良好な電荷輸送性を示す塗布型ホストマトリックスの設計につなげる基礎を確立した。 りん光発光材料については、溶液塗布型素子に展開できる分子設計をほぼ確立することができた。一方、発光層ホストマトリクスに関しては、カルバゾール誘導体をビニル官能基化し、ラジカル重合によって高分子化を確認できたものの、分子量分布が広く、分子量・分子量分布の制御に時間を要している。 エネルギー移動により駆動するラジカルELの成果は、論文執筆中である。新規TADF材料の合成ルートを詳細に検討し、赤・緑・青のフルカラー材料を短期間で合成できる有用なルートが確立できた。また、TADFに関与する高励起三重項状態の制御など、最新の知見を取り入れることも容易であり、この点では当初の予想以上に進捗している。 逆構造OLEDにおいて金属酸化物からの効率的な電子注入を行うためのポリエチレンイミンの電子注入機構を明らかにした。TADF材料をPMMAに分子分散させた発光層を塗布法で製膜し、逆構造OLEDにおいて外部量子効率12%を達成すると同時に、TADF材料(4CzIPN)に電子、正孔輸送性を見出した。従来にはなかったインピーダンススペクトルから二分子再結合定数を決定する手法を提案し、現在、論文執筆中である。 以上より、概ね計画通りに進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2つのCz基と1つのCN基をもつ系について同様の解析を進め、構造と発光との関係を明らかにし、実際に用いられている2CzPN、4CzPN、4CzIPN、4CzTPNなどに関する理論計算を実行し、実験結果の解釈を行う。分子構造を与えることで、自動的に移動度を計算することが可能なユーザーインターフェイスを作成し、多数のホスト材料の計算を半自動的に実行できる環境を整える。それにより、置換基を組み合わせた分子設計に取り組む。また、最適化された分子設計を実現するため、人工知能と機械学習のデータベースづくりについても検討する。 りん光発光材料については、塗布型逆構造型OLEDに展開できるように、素子構造に見合ったHOMO・LUMO値の調整と発光特性の最適化を行う。発光層ホストマトリクスに関しては、ビニル化カルバゾール誘導体の重合について、平均分子量が大きく、かつ分子量分布ができるだけ狭くなるように、重合条件の最適化(重合開始剤や重合溶媒の選定、反応温度の確立)を行う。 より高効率な発光を示すTADF材料を合成するとともに、青色~赤色のTADF材料を合成する。加えて、理論計算にもとづいた正孔・電子の移動度を高める分子設計指針を取り入れ、高効率な逆構造OLEDの実現を目指す。また、知的財産権取得も目指す。 発光層ホストマトリクスに分散させた新規TADF材料、りん光発光材料、ラジカル発光材料を用いてOLEDを作製し、高効率青色、緑色、赤色発光、塗布型逆構造OLEDを実現する。高効率逆構造OLEDの電子物性(電子・正孔移動度、局在準位分布、2分子再結合定数)を決定することによりOLEDのデバイス物理を明らかにし、上記量子化学計算とあわせて効率的なデバイス開発を実現する。
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