研究課題/領域番号 |
17H01269
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
斗内 政吉 大阪大学, レーザー科学研究所, 教授 (40207593)
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研究分担者 |
村上 博成 大阪大学, レーザー科学研究所, 准教授 (30219901)
川山 巌 大阪大学, レーザー科学研究所, 准教授 (10332264)
芹田 和則 大阪大学, レーザー科学研究所, 特任研究員 (00748014)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | テラヘルツ / バイオチップ / 非線形光学 / 局所場光物性 |
研究実績の概要 |
本研究では、テラヘルツ(THz)波による超高感度・微量検査のためのTHzバイオチップの提案と開発を行った。チップ材料として非線形光学結晶を利用し、フェムト秒光パルスの集光によって生じる局所THz波光源とマイクロ流路内溶液を直接相互作用させることでTHz波による微量分析を行うチップで、流路構造やメタアトム(メタマテリアルの基本素子)構造の最適化を行いながらその性能を評価した。その結果、このような局所THz波光源でメタアトムを励起すると、数個のメタアトムからでも十分な共振応答を得ることができることからコンパクトな構成にできる上、メタアトムの構造非対称性を利用することで実量100ピコリットル中の溶液の濃度を最大フェムトモルオーダーの感度で検出できていることが確認できた。これは、本システムがコンパクトかつディスポーザルなTHzチップとして利用できる可能性を示すものであり、将来的に極微量の血液検査などの医療応用に道を開くものである。また、THz波は水の吸収が強いことで知られているが、これによるTHz波信号強度減衰を低減させた反射THzシステムの開発も行った。この反射型THzシステムとチップと組み合わせることで溶液のみならずパラフィンに内包された生体組織の観察にも成功した。本結果から、生体組織片などの高分解能THz分光・イメージングによる評価にも応用でき、癌診断等に展開することが買うであると考えている。これらの成果は、これまで難しかったTHz波による生体関連試料の微量分析やコンパクトなチップ開発を可能とするものであり、THz新産業へのブレークスルーに繋がることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テラヘルツバイオチップ構造の最適化と反射型THz分光イメージングシステムの構築を行った。テラヘルツバイオチップでは、THzメタアトムアレイ構造を局所THz光源で励起し、直接溶液と相互作用させることで、ピコリットルオーダーの溶液中の溶質(イオン、グルコースなど)を最大でサブフェムトモルの感度で微量・濃度検出ができることが分かった。特に非対称メタアトムアレイ構造の採用によりアトモルオーダーのセンシングを行える可能性を示唆することができた。反射型THz分光イメージングシステムの開発では、上述のバイオチップにおいてサンプルと相互作用した後の反射THz波をセンシングに利用しており、最大9マイクロメートルの空間分解能でのサンプル観察・分析が可能である。非線形光学結晶へのサンプルセッティングとTDSをベースとした近接場プローブレスの構成であり、従来報告されている反射型THzシステムと比較してもトップクラスの空間分解能で分光・イメージングを達成している。特に、ミドリムシなどの微小微生物やがん組織などのバイオ・生体関連試料をTHz領域において鮮明に観察・分析することが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はこれら得られてきた成果を利用して、流路内の微量溶液中で生じる様々な生化学反応(酸化還元反応、抗原抗体反応、酵素反応、イオン濃度・血糖値変化など)の高感度かつラベルフリー測定を行い、チップの有用性と産業応用展開に向けた計測基盤技術の構築を行う。これと並行して、反射型システムを利用した生体組織のオンサイト評価・迅速検査の可能性についても検討していく。組織片をつけたチップを本システムに装着することで、例えば正常組織と腫瘍組織(がん組織)の識別から正確な腫瘍境界位置の特定までをも行える可能性がある。これを発展させて、プローブ顕微鏡のチップに開口穴を設け、レーザーを照射した開口穴から発生する近接場光により試料表面を励起し発生したTHz波を観測する「表面照射型の近接場レーザーTHz放射顕微鏡」の開発も並行して進めていき、上述のチップおよび測定技術を組み合わせることで、例えば、1細胞・1分子レベルでのTHz分光分析のほか、体液中に含まれるCTCなどの病原因子の検出可能性についても検討していく。
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