研究課題/領域番号 |
17H01279
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石原 昇 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任教授 (20396641)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ワイヤレスセンサネットワーク / 反射型通信 / 電磁音波ハイブリッド / バッテリーレス / センサ端末 / 弛張型発振回路 / ワイヤレス電力伝送 / CMOS集積回路 |
研究実績の概要 |
本研究ではセンサ端末のバッテリーレス動作化を可能とする電磁音波ハイブリッド反射型センサネットワーク技術の創出を目的としている。2019年度は、反射型ワイヤレスセンサ端末用IC/モジュール技術の高性能化を進めるとともに、ワイヤレスセンサネットワークとしてのシステム化に重点を置いて以下の研究を推進した。 (1)センサ端末の高性能化、高機能化技術:①反射信号強度を高くし通信の長距離化を可能とする技術として、 2値位相変調方式の適用と、アンテナと反射回路間にインピーダンス変換回路を挿入すること、が有効であることを解析および実験により明らかにした。実験の結果、10倍以上の改善効果を得た。②センサ情報の多重化技術として複数のセンサ情報を一括で伝送する空間周波数多重方式の検討を行った。センサ端末ごとに周波数帯を割り振ることにより、6チャンネルの多重化動作の実現に成功した。③バッテリーレス動作化技術として供給電力の蓄電/放電を制御する回路の検討を行った。昇圧回路とヒステリシスコンパレータ回路の組合せにより、蓄電と放電を繰り返し、センサ回路をバッテリーレスで間欠的に動作させることに成功した。微弱な室内光やRF信号などの複数エネルギー源の活用を可能とした。 (2)センサ端末用集積回路(IC)の改善:上記の技術を搭載するICの設計を行い、低コストで量産化に有利な0.35μm CMOS技術を選定し試作を行った。設計通りの機能を100μW@1.5Vの低消費電力で実現することに成功した。 (3)システム化技術:反射信号からセンサ情報を収集する情報収集端末技術としてソフトウエア無線技術の適用が有効であることを実験的に確認した。また、具体的なアプリケーションとして、医療用pH、環境温度、バッテリ電圧などのモニタリングを可能とする各種モジュールを試作評価し、システム化への見通しを得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、「反射型ワイヤレスセンサ端末用IC/モジュールの高性能化とワイヤレスセンサネットワークとしてのシステム化」に取り組んだ。その結果、①長距離伝送化技術、マルチチャンネル化技術、バッテリーレス動作化技術を明らかにし、新たな集積回路チップ化の実現により提案技術の有効性確認に成功した。また、②システム化に向けて、具体的アプリケーションを想定した pHセンシング、環境温度モニタリング、バッテリ電圧モニタリングなどの各種センサ端末モジュールを設計試作するとともに、ソフトウエア無線技術を応用した情報収集端末の検討を行いシステム化への見通しを得た。 おおむね計画通りに進捗していると考えるが、電波によるセンシング技術に関しては上記の成果を得たが、光や音波の有効な活用法が不十分で具現化できていない。また、システム化に向け情報収集端末の性能、機能を拡充するためのソフトウエアの研究開発の重要性がクローズアップしている。 最終年度は、集大成として、医療機器や産業機器の状態モニタリングや農地やオフィスなどの環境モニタリングといった具体的アプリケーションを想定し、システム化の検討を重点的に行い実証実験に挑戦する。センサ端末モジュールには2019年度試作のICを活用する。情報収集端末は、ソフトウエア無線技術の検討を重点化し研究を推進する。また、電波に加え光や音波のハイブリッド活用法も具体化し、「電磁音波ハイブリッドによる反射型ワイヤレスセンサネットワークシステム技術」として学術体系化を図る。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は、これまでの3年間で構築した反射型センサ端末回路/モジュール技術、システム化技術の集大成として、具体的アプリケーションを想定したワイヤレスセンサネットワークとしてのシステム化に重点を置き研究を推進し、技術の体系化を目指す。 (1)具体的アプリケーション:医療、農業、産業、オフィスなどへの応用を想定しワイヤレスセンシングシステムとしての実証実験を目指す。医療応用では、口腔内のpHや体温などの人体の健康状態モニタリング、農業やオフィスでは、気温、湿度、照度などの環境モニタリング、産業応用では産業機器のヘルスモニタリング(バッテリ残量や振動など)を想定し、アプリケーションに応じたシステム化技術を明確化し、代表的なアプリケーションを1つ選定し実証実験にも挑戦する。実証実験では技術の実用化に向けた課題(雑音の影響やセンシング精度)などを抽出し、対策を明らかにする。 (2)反射型ワイヤレスセンサ端末:2019年度に試作した独自の集積回路(IC)と各種センサの組合せ方を明らかにし、システム用モジュールを試作し実現する。この際、エネルギー源および信号媒体として、電波だけではなく、光、音波とのハイブリッド活用法もアプリケーションに応じて具体化する。 (3)情報収集端末:ソフトウエア無線技術をベースに情報収集端末の試作を行う。ハードウエアは市販部品を活用し、鍵となるソフトウエア技術は、解析ソフトウエア(MATLAB/Simulink)を活用し具体化する。多数のセンサ端末の情報を集約し、インターネット上へ展開するシステム化技術についても取り組む。 (4)技術の体系化:上記のハードウエア技術、ソフトウエア技術をまとめ、「電磁音波ハイブリッドによる反射型ワイヤレスセンサネットワークシステム技術」として学術的体系化を図り、学会等で積極的アピールを行い、IoT/AI時代の更なる発展に資する。
|