研究課題/領域番号 |
17H01285
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
佐伯 竜彦 新潟大学, 自然科学系, 教授 (90215575)
|
研究分担者 |
斎藤 豪 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (90452010)
佐々木 謙二 長崎大学, 工学研究科, 助教 (20575394)
須田 裕哉 琉球大学, 工学部, 助教 (10636195)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | C-S-H / C/S比 / 比表面積 / 拡散係数 / 屈曲度 / 乾燥収縮 / 高温履歴 |
研究実績の概要 |
高Ca/Si比C-S-Hの合成条件に関する検討を行った.その結果,Si源をオルトケイ酸ナトリウムとし,液相pHを高くした共沈法を用いることで,平均Ca/Si比が最大で1.95程度となる,CHが共存しないC-S-Hを合成できる可能性を示した.また,C-A-S-Hの合成と合成試料の評価を29Siおよび27Al NMRを用いて行った.その結果,4配位のAlが存在していること,A/S比が高くなるほどSi鎖においてAlがbridging siteを形成している割合が多くなっていることを確認した. 合成 C-S-H を加圧成型することにより他の水和物を含まない供試体を作製し,その酸素拡散係数を測定することによって,C-S-Hがセメント硬化体の物質移動性に及ぼす影響を検討した.酸素拡散における屈曲度はC-S-Hの表面積と相関を有することが確認された.次に,合成C-S-Hを炭酸化させた後に加圧成型し酸素拡散屈曲度を算出することで,炭酸化が物質移動性状に及ぼす影響を検討した.その結果,炭酸化によるC-S-Hの表面積の減少により物質移動経路が単純化したことにより,物質移動抵抗性が低下することを明らかにした. 乾湿によるセメント硬化体の体積変化に関する検討では,収縮ひずみの回復性と非回復性のひずみに及ぼす養生温度および混和材の影響を評価した.その結果,養生温度が高い試料ほど,乾燥時の収縮ひずみは減少した.一方で,回復性ひずみは養生温度が高い試料ほど増加した.また,フライアッシュセメント硬化体では,無置換の試料と比較して乾燥収縮ひずみは小さいものの非回復性のひずみは大きくなることが明らかとなった. 前置時間,最高温度を変化させた初期高温履歴を与えたセメント系硬化体の相組成および硬化体性能のデータを取得し,初期高温履歴パターンが相組成および硬化体性能に及ぼす影響を明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高C/S比のC-S-Hを得るための合成方法(共沈法)が明らかとなり,Ca源,Si源,それぞれの液相pH,撹拌温度,撹拌時間等の条件設定を行い,ある程度高C/S比を有するC-S-Hの合成が可能となっている. C-S-Hが気体の拡散に及ぼす影響は,炭酸化の有無によらずC-S-Hの表面積で評価できることを明らかにし,C-S-Hが物質移動性に及ぼす影響を定量的に評価できることを示した. 乾燥および飽水時の体積変化における養生温度と混和材の影響について,回復性と非回復性のひずみの影響が明らかとなり,窒素吸着等温線による空隙構造の解析から,これら体積変化挙動にミクロからマクロスケールの空隙構造が影響を及ぼしていることが明らかにした. 代表的な初期高温履歴を与えたセメント系硬化体の相組成および硬化体性能のデータが取得でき,C-S-Hの生成量・構造・物性と硬化体性能を結びつける関係式の定式化に向けた検討を進めるための基礎データが十分に得られた.
|
今後の研究の推進方策 |
C-S-Hの合成については,Ca源およびSi源の更なる選定を行う予定である.現在は,合成したC-S-Hが炭酸カルシウムとの混相であり,その分C/S比は低いものが合成されている. JenniteをベースにしたC-S-H(Ⅱ)やセメント水和によって生成するTobermorite-gelといった高Ca/Si比C-S-Hの生成を確認するためには,炭酸化が生じない環境におけるC-S-Hの合成とTEMによるそれらの詳細観察を実施する必要がある. C-S-H加圧成型体を用いた検討については,C/S比の異なるC-S-Hの混在や他の水和物との混在の影響を検討する.なお当初の計画では,H30年度予定の炭酸化したC-S-Hが物質移動性に及ぼす影響の検討を前倒しで行った.代わってH29年度に予定していた強度特性の検討を行う. 収縮性状については,これまでの検討により,養生温度の違いや混和材を使用した際の乾燥および飽水時のマクロな体積変化挙動が明らかとなった.今後は,乾燥および飽水時のセメント硬化体の体積変化挙動に及ぼす要因を明らかにするため,C-S-Hの結晶構造の変化に着目し検討を行う.特に,混和材から生成されるC-S-Hの結晶構造は,ポルトランドセメント系から生成されるC-S-Hとは異なるため,この微細構造に及ぼす乾湿の影響を評価する.また,水蒸気吸着等温線と窒素吸着等温線を併用することでミクロからマクロの空隙構造の変化を明らかにする. 高温履歴の影響については,平成29年度に初期高温履歴パターンが相組成および硬化体性能に及ぼす影響をある程度明らかとしたが,限定的な範囲に留まっているため,配合,温度履歴パターンを変化させた硬化体により追加データの取得を行う.さらにはC-S-Hの生成量・構造・物性と硬化体性能を結びつける関係式の定式化に向けた検討行う.
|