研究課題/領域番号 |
17H01299
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐野 大輔 東北大学, 工学研究科, 准教授 (80550368)
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研究分担者 |
大村 達夫 東北大学, 工学研究科, 教授 (30111248)
北島 正章 北海道大学, 工学研究院, 助教 (30777967)
片山 和彦 北里大学, 感染制御科学府, 教授 (60342903)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ノロウイルス / 血液型決定抗原 / HBGA分泌細菌 / 水環境中動態 |
研究実績の概要 |
代表的な胃腸炎ウイルスであるノロウイルスは、環境中における動態が十分に理解されておらず、先進国においても多大な感染症被害をもたらしている。研究代表者らはこれまでの研究において、ノロウイルス吸着性糖鎖である血液型決定抗原(histo-blood group antigen: HBGA)を分泌する細菌の単離に成功し、この細菌がノロウイルスを特異的に捕捉することで膜ろ過による除去効率や遊離塩素・紫外線等による消毒効率に影響を与えることを確認した。本研究では、研究の場をさらに拡大し、HBGA分泌細菌がノロウイルスの水環境中動態に与える影響を評価することを目的としている。
研究初年度である平成29年度には、環境水中からのHBGA陽性細菌の単離を試みた。下水試料に大腸菌用の特定酵素基質培地粉末を添加し、37度条件下で一晩振とう培養して得られた菌体に対し、蛍光標識抗HBGA抗体による標識を行った。試料液をセルソータに供し、蛍光を呈した集団を再度特定酵素基質培地へとソートし37度条件下で一晩振とう培養した。培養液から上記の手順で試料液を作成し、セルソータで検出するという一連の手順を1サイクルとし、蛍光を示す集団に顕著な変動が観察された段階で特定酵素基質培地入りの96穴プレートへとソートし、その後特定酵素気質寒天培地上へ植菌して単離操作を行った。単離株に対し血液型検査キットによるHBGA活性試験を行い、HBGA活性が示された株は16S rRNA遺伝子配列解析を行った。下水及び河川水を試料源として139株(河川水:55、下水:84)のHBGA陽性細菌を単離した。139株すべての単離株に対してHBGA活性試験を行った結果、23の株でHBGA活性が観察された。HBGA活性が観察された23株の16S rRNA遺伝子配列解析の結果、22株がEscherichia属、1株がSerratia属であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、HBGA分泌細菌がノロウイルスの水環境中動態に与える影響を評価することを目的としているが、研究初年度である平成29年度には、環境水サンプルからのHBGA分泌細菌株の単離を試みた。その結果、HBGA陽性の23株が単離され、16S rRNA遺伝子配列解析の結果、22株がEscherichia属(内17株は大腸菌と相同性100%)、1株がSerratia属であることが確認された。これらの結果より、環境水サンプル中にHBGA分泌細菌が存在することが証明されたことから、現在までに本研究は予定通り進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年度目である平成30年度には、研究初年度に分離した細菌のHBGA分泌関連遺伝子同定、及びHBGA分泌細菌の環境中動態を把握するための水環境サンプルの取得を行う。研究初年度に得られたHBGA 分泌細菌単離株に対し、HBGA 合成遺伝子の同定を行うために、Transposon mutagenesis をHBGA 分泌細菌単離株に適用して目的遺伝子欠損株を得る。Transposon が導入された変異株は抗生物質耐性能を得るので、抗生物質を添加した寒天培地上でコロニーを形成させる。コロニーをピックアップし、抗生物質を添加した液体培地により1晩37度で培養後、HBGAを標的としたELISAを行う。HBGAに由来するシグナルが低下した株はHBGA分泌関連遺伝子を欠損した株である可能性が高いことから、Transposonが導入された遺伝子領域を解析することで、HBGA分泌関連遺伝子を同定する。同時に、環境中のHBGA 合成遺伝子とノロウイルスの濃度相関解析を行う目的で、環境水サンプルを継続して採取する。環境水サンプルはポリエチレングリコール法により濃縮し、RNA抽出処理を行って、定量RT-PCRによりノロウイルス濃度を定量する。来年度以降、同じサンプルについてHBGA分泌関連遺伝子の定量を行うために、遺伝子抽出前の濃縮サンプルは冷凍庫に保存する。
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