研究課題/領域番号 |
17H01300
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
大橋 晶良 広島大学, 工学研究科, 教授 (70169035)
|
研究分担者 |
金田一 智規 広島大学, 工学研究科, 助教 (10379901)
青井 議輝 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (40386636)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | エコバイオテクノロジー / 環境技術 / 排水処理 / 資源回収 / 温室効果ガス |
研究実績の概要 |
本研究は(1)染色排水・廃棄物処分地浸出水などの難分解性排水処理,(2)排水等からの資源(リン,生分解性プラスチックの原料となるポリヒドロキシアルカノエート(PHA))回収,(3)温室効果ガスの分解による放散防止に関する6つの新規環境技術を対象としており,2年目は4つの開発技術に対して次の研究成果を得た。 (i)難分解性排水処理:マンガン酸化細菌は難分解性の固形性有機物を利用して増殖できることを発見し,染料などの脱色・分解の可能性を明らかにしている。そこで,嫌気性環境下でのDHSバイオリアクターによる染色排水の連続処理実験を実施し,染料は分解され,処理性能を評価した。 (ⅱ)海水・汽水からのリン回収:DHSリアクターを用い,嫌気と好気を繰り返すことでポリリン酸蓄積細菌(PAO)を集積して下水からリン酸を濃縮回収する方法を考案している。また,干潟底質から好塩性(耐塩性)のPAOの存在を発見し,集積培養に成功している。そこで,分子生物学的手法により優占化するポリリン酸蓄積細菌を同定した。 (ⅲ)極低濃度メタンガスの分解:メタンを酸化する多様なメタン酸化細菌の中には大気中のメタン(1.9ppm)を利用できるものがいるのではと考えられており,世界の研究者が探索を行っている。最近,我々はpH3という強酸性下の条件で,メタン濃度5ppmでも増殖するメタン酸化細菌の生存を確認した。そこで,分離・培養を試みたが,まだ分離までには至っていない。 (ⅳ)亜酸化窒素ガスの分解:我々は亜酸化窒素ガスを硝酸性窒素に酸化する細菌の培養を試みていた。その結果,亜酸化窒素が分解できることを明らかにしている。しかし,分解生成物は硝酸性窒素でなく,驚いたことに無害の窒素ガスになっていた。処理としては非常に好都合であるが,分解の機構は不明である。そこで,仮説を立て実証のための分解実験を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(i)難分解性排水処理:染料としてアゾ染料を選択し,この人工排水の連続処理実験を行った。嫌気性環境下では,高速に処理できることが分かった。マンガン酸化物が処理リアクターに導入されている系では,マンガン酸化物が還元されMn(II)イオンが生成される現象が観察された。アゾ染料の分解には有機物の供給が必要であるが,マンガン酸化物が導入されているリアクターでは,導入されていない系よりも,低濃度の有機物でもアゾ染料の分解が可能であることが明らかになった。また,嫌気性であるためメタンが生成されるが,マンガン酸化物はメタン生成に影響を与えなかった。 (ⅱ)海水・汽水からのリン回収:DHSリアクターを用い,海水・汽水・淡水で条件下でポリリン酸蓄積細菌(PAO)を集積培養した。集積された微生物はそれぞれ塩濃度に対する特徴があり,淡水や海水にしか生息できないPAOもいるが,両方の環境でも増殖できるPAOも存在しており,海水および汽水からリンを資源として回収できることが明らかになった。 (ⅲ)極低濃度メタンガスの分解:DHSリアクターを用いて,pH3の強酸性下の条件で,メタン濃度10ppm が5ppmまで消費されるため,メタン酸化細菌の生存が再確認されたが,分子生物学的手法ではメタン酸化細菌の機能遺伝子を増幅することができず,新種のメタン酸化細菌である可能性が示唆された。メタン酸化細菌の分離・培養を試みたが,まだ分離までには至っていない。 (ⅳ)亜酸化窒素ガスの分解:活性汚泥を植種したDHSリアクターに亜酸化窒素ガスを連続供給して,分解性を調べた。亜酸化窒素は消費され,窒素ガスが生成されることを確認した。微生物解析により,古細菌が亜酸化窒素を分解している可能性が示唆された。今後,その代謝経路を明らかにする必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は4つの開発技術に対して次のことを実施する。 (i)難分解性排水処理:2018度はDHSバイオリアクターによる嫌気性条件下で染色排水の連続処理実験を実施し,高速の脱色性能があることが明らかになったが,アゾ基の開裂によるものであった。そこで2019度は嫌気と好気性条件下を繰り返すことで完全分解が可能であるかを調べる。 (ii)生分解性プラスチック原料PHAの生成・回収:下水処理場から生分解性プラスチック原料PHAを生産することができる。模擬下水を用いた実験ではPHA含有量約25%の生成データを得ている。これまで下水を用いてのPHA回収実験を実施したが,PHA含有量は低い結果に終わった。そこで,より至適な嫌気・好気時間を探る検討を行う。また,PHAはメタン酸化細菌のあるグループでも生成することが知られており,そのグループの培養とPHAを蓄積する条件を調べる。 (iii)極低濃度メタンガスの分解:pH3という強酸性下の条件で,メタン濃度5ppmでも増殖するメタン酸化細菌の生存を確認したが,まだ分離までには至っていない。そこで,2019年度も継続して分離・培養を行うと共にメタゲノム解析により菌の同定を行う。 (iv)海水・汽水からのリン回収:干潟底質から塩性(耐塩性)のPAOの存在を発見し,集積培養に成功している。このことは,海水および汽水からもリンを資源として回収できることを示唆している。2018年度,海水と汽水に生息できるPAOの種は異なっていることを把握しており,塩濃度とPAOの系統的関係を検討する。
|