研究課題/領域番号 |
17H01310
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
中川 理 京都工芸繊維大学, デザイン・建築学系, 教授 (60212081)
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研究分担者 |
赤松 加寿江 京都工芸繊維大学, グローバルエクセレンス, 講師 (10532872)
加藤 玄 日本女子大学, 文学部, 准教授 (00431883)
伊藤 毅 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20168355)
杉浦 未樹 法政大学, 経済学部, 教授 (30438783)
上杉 和央 京都府立大学, 文学部, 准教授 (70379030)
中島 智章 工学院大学, 建築学部(公私立大学の部局等), 准教授 (80348862)
坂野 正則 上智大学, 文学部, 准教授 (90613406)
岸 泰子 京都府立大学, 文学部, 准教授 (60378817)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 都市史 / 領域史 / テロワール / 食産品 |
研究実績の概要 |
本研究は、これまでの都市史学を乗り越える領域史研究の構築を目指し、土地の風土的特徴と価値評価を表す「テロワール」概念を拠り所にして、食文化が土地に刻みつけてきた豊かな歴史を、国内外の都市を比較分析しながら実証的に解析することを目的としている。今年度はテロワールの基本構造を理解しつつ、その拡張性を確認するための基礎調査を行った。対象に据えられたのはテロワールの原形を形成したフランスのブルゴーニュ、葡萄生産の北限地シャンパーニュ、そして、テロワールの拡張性を示すために選択されたのが京都である。京都では、都に竹材や筍を供給してきた西京の竹産地を調査地とした。 調査方針は、地形、地質、気候といった自然条件を遡及的に把握すること、同時に加工、流通、消費といった人的関与がどのようになされてきたのかについて、定量的に明らかにすることにおかれている。その変化、実態把握はGISによって地図化され、領域史を可視化することが目指されている。 今年度は4回の研究会、京都、フランスにおける2回の現地調査、1回の公開シンポジウムを実施した。ブルゴーニュでは6の生産加工地、シャンパーニュでは4の加工地、京都では京都市西京区大枝塚原町、向日市、嵯峨に訪問し、地図、データの収集、生産者へのヒヤリングを行った。 建築史、都市史、歴史学、地理学、経済史学の分野横断的な調査チームによるその成果は年度末の公開研究会「テロワールの空間」において明らかにされ、さらなる調査の深化について議論が行われた。これらの議論において、テロワール概念の有効性および、領域史の新たな方法論の構築が展開しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はフランス、京都を対象に現地調査および分析を行った。フランスのワイン産地であるブルゴーニュとシャンパーニュの調査は、テロワールの基本構造を理解することを目的に据えたもので、京都の竹・筍調査はテロワールの見方の広がりと可能性を問うことを目指した。 ブルゴーニュ調査は、テロワールの原型である「クリマ」について理解を深めるため、アロース=コルトンを具体的な対象とし、土地環境の変化について史料から分析した。赤と白ワインを両方育てるという特異な土地であるコルトンにおける古地図の比較読解から、流れ出た土の追加や森の減退、隣村セレニーの流通的性格といった背景が浮かび上がった。産品の地味継承における人の営為活動を照らしつつある。 シャンパーニュ調査では、立地のことなる複数の加工空間(メゾン)を訪問し、葡萄栽培地との立地的とメゾンの特徴から3つに類型化した。石灰岩地質のランスにみられる「竪堀型」、堆積土のシャロン・アン・シャンパーニュのような丘の横腹を掘削してできた「横堀型」、アイ村のような竪堀と横堀を接続させた「複合型」である。地質と醸造空間の立地と空間構造を読み取り、その特性を明らかにしつつある。 京筍調査では、嵯峨と乙訓を対象とし、(1)土壌性質に関する基礎調査、(2)筍と竹生産者へのヒヤリング、(3)現地観察調査、(4)史料分析を行った。嵯峨ではマダケを用いた「輪竹」生産という竹材産業が展開し、乙訓がモウソウチクによる筍産地となったという違いを確認し、その背景には、土壌条件にもとづく人的工夫、流通条件、消費環境が複雑に絡み合っていることが指摘できた。 以上のように、テロワールの違いをつくり出す背景要因には、土壌を基盤にした人的営為が介在していたことに着目するべきであり、広義なテロワールとして捉える必要があると分析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は初年度の調査からの継続調査と新規調査を累積的に行っていく。継続調査、初年度着手したシャンパーニュおよび京都を対象地とするもので、より具体的な史料調査、建築の実測調査を実施し、独自の分析を深化させていく予定である。 一方、新規調査となるのは、ボルドーと台湾を対象とした調査である。ボルドーは、ブルゴーニュ、シャンパーニュについで、フランス・ワインにおけるテロワール研究の第3の調査地となるもので2018年8,9月の実施を予定している。地質や地形のみならず流通条件が産品を性格付けているという、本研究の仮説を実証化する研究のひとつである。またボルドー調査においては、ボルドー大学からも高い関心をよせられ、同大学をカウンターパートとした共同研究、コロック開催の可能性が考えられる。台湾調査はアジアにおけるお茶のテロワール研究の基礎調査となるもので、茶畑の立地する地形、地質による地味の違い、生産加工過程について臨地調査を行う。この2つの調査地に加え、来年度以降の展開を踏まえた巡見を行う予定である。 年度末には「テロワールと流通」に焦点をあてた公開研究会を開催し、成果を公開する予定である。
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