研究課題/領域番号 |
17H01317
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 周 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (10182437)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 無機有機ハイブリッドペロブスカイト / 光電池 / インターカレーション / イオン伝導 / 蓄電池 |
研究実績の概要 |
MA-H-Pb-Br系の状態図を検討すると共に,溶媒として広く用いられているDMFに対するMAHPbBr3の溶解度を調べた.DMF-MAHBr-PbBr2擬三元系状態図を調査し,MAHPbBr3組成で溶解度が最少になること,溶媒中のMAHBr3とPbBr2の組成比を変化させることによりMAHPbBr3組成のA/B比を変化させることができることを明らかにするとともにPbBr2飽和条件で単結晶試料を育成し,電気輸送特性の測定に供した. MAHPbBr3系については,Hebb-Wagner直流分極法による全電子伝導度と交流インピーダンス法による全電気伝導度測定を複数の単結晶試料について再現性を確認しながら行った.その結果,中~低臭素ポテンシャル条件ではイオン伝導が優勢であり,臭素空孔が電子トラップとして作用するという欠陥モデルを用いることによって,低臭素ポテンシャル条件でのn-型伝導度の飽和現象を説明できることがわかった.また,高臭素ポテンシャル条件でのホール伝導の飽和現象は,A/B-サイト空孔が凍結された状態にある部分ショットキー平衡を仮定して考察した.一方,MAHPbI3系では,イオン輸率が電子輸率とほぼ同程度であること,欠陥構造が臭素系とは全く異なることが判った.CsPbBr3系の全電気伝導度測定からは,高温では全ショットキー平衡が成立していると考えられることなど,前報とほとんど同一の結果が得られたが,僅かにA/B-サイト比依存性が現れること,新たに低温での相転移による伝導度の不連続的な変化が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
MAHPbBr3系についての,Hebb-Wagner直流分極測定と交流インピーダンス測定による全電子伝導度と全電気伝導度測定が進み,これまで課題だった高い再現性を示すデータが得られたことが大きな前進である.また,得られたこれらの異なる電気伝導度を説明するための欠陥平衡モデルについて,得られた電気伝導度の臭素活量依存性ともほぼ矛盾のないモデルと結果の一致が得られたのは大きな進歩であり,その核心であるVBr・+2e’→ VBr’という反応より臭素空孔が電子トラップとなる可能性についてDFT計算による検証を現在進めている.このような信頼できるデータに対する新しい解釈が進展し,延期してきた論文投稿の準備が整った.現在これらをまとめて高いインパクトのジャーナルに投稿する準備を行っている. また,ヨウ化物系についても,再現性の確認も含めて分極実験が進められており,臭化物系に比べてイオン伝導性が低いこと,全電子伝導度,すなわちキャリア電子のヨウ素ポテンシャル依存性について信頼性の高いデータが得られつつあり,欠陥構造の相違について議論をする準備がほぼ整った段階まで進展した. また,光インターカレーション基本動作を確認するために,単結晶を利用したPb/MAPbBr3/AuセルによるOCVでの明暗条件における充電/放電の緩和過程観察により,光充放電現象の確認がほぼ確実になった. 以上のようにそれぞれの実験は,予定した計画以上に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成功には良質な単結晶育成が不可欠であり,溶媒蒸発法により大型結晶の育成が難しいと言われるMAHPbI3単結晶育成と化学的安定性が高く光インターカレーションに適していると考えられる無機系単結晶試料の育成をブリッジマン法により予備的に試みているが,これを本格的に進め,電気輸送特性を明らかにする. また,得られた欠陥平衡や相平衡関係から,ペロブスカイト相ABX3を構成するBX2とペロブスカイト相の化学的安定性が共に高いことが必要であることが判ったため,無機系でイオン移動度が高く伝導体における電子移動度の高い物質を探索する必要がある.また,化学的安定性に関しては,カチオン並びにアニオンサイトの混合効果によってさらに高まることが判っており,これらを考慮に入れながら,主には無機系混晶型ペロブスカイトの単結晶成長と光充放電特性を平成29年度に導入した分光光源と温度・雰囲気調整型セルを組み合わせた光インターカレーション特性測定装置を利用して実験を進める.暗条件での高イオン輸率と照射条件での高電子輸率を実現するために満たすべきバンドギャップの大きさと電子とホールの移動度,再結合反応の緩和時間など,光インターカレーションを実現するための条件について検討する.具体的には,光電圧測定を中心とした光充放電特性,緩和時間測定を様々な入射光源のエネルギーの下で明暗条件を繰り返し切り替えながら測定し,光電圧およびNernst電圧の充電時間依存性,充放電効率を測定し,光インターカレーションの原理実証を行う.また,シンクロトロン放射光を用いたoperando測定による内部のRedOx電位の測定に挑戦する.
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