研究課題/領域番号 |
17H01320
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 勝久 京都大学, 工学研究科, 教授 (80188292)
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研究分担者 |
藤田 晃司 京都大学, 工学研究科, 教授 (50314240)
村井 俊介 京都大学, 工学研究科, 助教 (20378805)
北條 元 九州大学, 総合理工学研究院, 准教授 (90611369)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 酸化物 / 磁性体 / 誘電体 / マルチフェロイクス / 磁気光学 / プラズモニクス / 薄膜 / 単結晶 |
研究実績の概要 |
本研究は、マルチフェロイクスならびに短波長磁気光学材料を対象に、新物質の探索、複合材料の作製、機能が現れる機構の解明を行い、新たなスピン機能を持つ酸化物材料へ展開することを目的としている。2019年度は以下の成果が得られた。 マルチフェロイクスに関しては、(Eu,Ba)ZrO3固溶体を合成し、結晶構造と磁性を明らかにした。安定相のEuZrO3は直方晶であり、反強磁性体となることが知られているが、Eu2+をBa2+で置換すると結晶系が変化するとともに格子体積が増加し、Eu2+の濃度が高い領域では強磁性が安定化することを見いだした。また、ルドルスデン-ポッパー相のAgRTiO4(Rは希土類)が圧電体となること、c面内に負の熱膨張を示すことを見いだし、後者についてはAg-O-Ti結合の共有結合性がその起源であることを理論計算から導いた。 電子誘電体RFe2O4については、酸素欠陥を有するTmFe2O4単結晶の磁性を詳細に調べ、これがリエントラントスピングラス転移を示すことを実証した。また、TmFe2O4薄膜と同様、YSZ基板上に製膜したLuFe2O4エピタキシャル薄膜も界面において自己組織的な組成の傾斜が生じ、この微視的な構造に基づき交換バイアス効果が生じることを明らかにした。 短波長磁気光学材料に関しては、AlおよびSiのナノシリンダーアレイをナノインプリント法で作製し、強磁性体としてFeを蒸着した複合材料の光学特性と磁気光学効果に関する研究を進め、Alのプラズモン場のみならず、Siにおいてもアレイの構造を最適化すれば、Siナノシリンダーがミー共鳴を示す波長においてファラデー効果が大きく増強されることを見いだした。Alに関しては、数値シミュレーションの結果から、Fe薄膜において光電場の増強が見られる波長領域が大きなファラデー効果に寄与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
マルチフェロイクスに関し、(Eu,Ba)ZrO3固溶体においてBa2+の固溶量が増すと磁気秩序が反強磁性から強磁性へ変化することを明らかにするとともに、結晶構造解析の結果から、結晶系の変化と格子体積の増加が磁気秩序の劇的な変化をもたらすことを見いだした。これは、体積や結晶系の変化によってEu2+の4f軌道とZr4+の4d軌道の重なりが減少し、5d軌道を介した強磁性的相互作用がEu2+の4f軌道間の超交換相互作用に打ち勝つことによって生じる現象であると考えられ、研究代表者らの理論計算に基づく先行研究と整合性のある実験結果となった。また、AgRTiO4が圧電体となることはNaRTiO4に関する研究代表者らの先行研究から予測されたものであるが、Ag系がNaなどアルカリ金属を含む系とは大きく異なり負の熱膨張を示すという実験事実は予想外の結果であった。その理由を明らかにするために密度汎関数法を用いた計算を行い、Ag-O-Ti結合においてエネルギー準位の似た原子軌道を介してTi4+の空軌道に電子が流れ込み、TiO6八面体が2次ヤーン-テラー効果によって大きく歪むことが負の熱膨張の起源であることを見いだした。これは従来にはない機構であり、特筆すべき成果である。 磁気光学材料では、当初予想していたプラズモン場によるファラデー効果の増幅のみならず、非金属であるSiのナノ結晶が示すミー共鳴においても、ナノ周期アレイ構造に基づく光回折とのカップリングが起こり、特定の波長領域においてファラデー効果が増強されることを見いだした点は、当初の予想を上回る成果である。同時に、SiのナノシリンダーアレイとFe薄膜との複合材料が置かれる環境の屈折率を変えると光吸収とファラデー効果の増強が起こる波長を独自に調整できる可能性が示された。これは、高い性能指数を持つ磁気光学材料を得る上で重要な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に引き続き、バルクおよび薄膜の合成と構造解析、量子化学計算、数値シミュレーション、誘電性、磁性、プラズモニクス特性を中心とした物性の測定を進める。2020年度は最終年度であるため4年間の研究を総括する。 マルチフェロイクスについては主として希土類鉄酸化物を重点的に調べる。まず、準安定相の六方晶RFeO3(Rは希土類元素)系を対象に、薄膜およびナノ粒子の合成を試み、電子顕微鏡観察に基づく構造解析、磁性、誘電性などの物性測定を実施する。また、RFe2O4結晶については特に合成が難しいとされるEr系、Ho系を対象に、FZ法による単結晶の育成、結晶構造解析、基礎的な磁性と誘電性の測定を行い、最終的にはマルチフェロイック特性を解析する。 磁気光学の関連では、プラズモン場を利用したファラデー効果の増幅の研究を進めるとともに、Siなどを対象にナノ粒子化によって現れるミー共鳴も積極的に利用する。2019年度までにAlおよびSiナノ周期アレイに強磁性体薄膜を蒸着した試料において、プラズモンポラリトン共鳴あるいはミー共鳴と光回折に基づくファラデー回転の増幅を実現し、Al系についてはこれをモデル化して電磁場解析を行い、磁気光学特性が増幅される機構の考察を試みた。同様の解析をミー共鳴が寄与する系に対しても実施する。また、これまでの数値シミュレーションと実験の結果から、プラズモン共鳴による光電場の増強がファラデー回転角を増幅するという結果は得られているものの、プラズモン場が誘電率の非対角項にどのように作用するかといった本質的な機構が十分には解明されていない。今年度は理論的な立場からこの問題を解決することを目指す。 2019年度までも成果が得られた場合は学会発表や論文掲載などの形で公表を行ってきたが、2020年度は特に最終年度であるため、これまでの研究成果を整理し積極的に公表する。
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