研究課題/領域番号 |
17H01340
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
林 潤一郎 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (60218576)
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研究分担者 |
工藤 真二 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (70588889)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 炭素 / チャー / ガス化 / 反応機構 / 反応速度モデリング / 触媒 / 褐炭 / バイオマス |
研究実績の概要 |
本研究は9のタスク(Tasks 1~9)から構成される。Tasks 1~4は炭素構造と無触媒ガス化機構・速度論に関して、Tasks 5~8は炭素が含有する金属種による触媒ガス化反応機構・速度論に関する新学理構築を最終目標とする。Task 9は本研究成果を総括した成果公表である。Tasks 1~4に関しては、昨年度の研究実績を踏まえて研究を展開し、褐炭・バイオマスチャーのガス化はガス化開始から終了に至るまで比速度が殆ど変化しないと結論するに足るエビデンスを得た。原料やチャーからの金属種完全除去は不可能であったが、チャーへのシリカ添加による触媒in-situ不活性化、高ガス化率チャーの脱金属。再ガス化によって上記の結論に至った。一方、炭素構造はガス化進行に伴って高度縮合した芳香族構造がリッチになる傾向がわかったが、同傾向は顕著ではなく、炭素の一次構造が無触媒ガス化速度を支配するとの結論には至らなかった。 Tasks 5~8の研究も展開した。二種の褐炭を逐次的にイオン交換・酸処理し、金属種含有率・組成が異なる18種の試料を調製し、個々から得たチャーのガス化速度論を解析した。その結果、前年度に構築した無触媒・触媒並列反応モデルの妥当性を定量的に示し、さらに、バイオマスチャー12種、他の褐炭チャー11種を併せた計41種のチャーに関して、ガス化開始時の触媒活性(触媒ガス化速度)とその後の触媒失活速度の関係をNa、K、CaおよびFe濃度(ガス化開始時)の一次関数として統一的かつ定量的に表せることを示した。 上記に加えて全てのタスクに関係する「無触媒ガス化および触媒ガス化の速度の測定法」を徹底的に見直した結果、既往の論文に報告されたガス化速度の多くは、本質的問題を抱えていることが判明した。この、当学術コミィニティにとって重大な問題に関しては次年度に最終的な結論を報告する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(理由1)当初計画では、チャーの炭素構造(一次構造、芳香族炭素形態分布)と無触媒ガス化反応速度論の関係を解明するための複数のタスクを準備していたが、研究2年目の昨年度までに、炭素構造は、一次構造および細孔構造(ミクロ、メソ)はいずれも無触媒ガス化速度を支配する因子であるとするエビデンスが得られず、これらは支配因子ではないと結論するほうがより妥当であると(ほぼ)結論するに至った。そのため、結果的に、炭素構造を速度因子に組み込むためのDFT計算等の検討(Task 4および8)する必然性がなくなった。これにより、上記の結論をより確かなものとする研究を3年目に実施し、最終結論を出せる見通しが得られた。 (理由2)昨年度に無触媒ガス化速度の測定法を再検討した。すなわち、当研究者による方法も含めて既往の速度測定手法(とくに熱天秤法)のcritical assessmentを行った。その結果、熱天秤の場合、チャー試料の初期質量を1~2 mgにする必要があり、かつ、キャリア・反応性ガスの総流量を1,000 ml-stp/minを十分に超える程度にしないとガス化速度が条件に依存することが判明した。無触媒ガス化は条件によっては完結までに10 h以上を必要とするにも拘らず、そのような条件依存性が生じるメカニズム(反応、物質移動)はほぼ解明しつつある。一方、10~数10 min内に完結する場合が多い触媒ガス化は、無触媒ガス化よりも圧倒的に迅速であるにも拘らずガス流量依存性がほとんどないことも判明した。以上の事実はガス化反応を構成する素反応から理解できるものであるが、これを証明すれば、従来のガス化速度論研究のほとんどは「ガス化速度を化学反応支配レジームで測定できていない」ことになり、ガス化研究の学術コミュニティに重大な影響をもたらす。このことは当初想定を大きく超えた顕著な研究成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は4年計画の本研究の3年目にあたる。今年度は昨年度に着手した研究(Task 5)を本格実施し、成果を得た上で完了する。すなわち、金属フリー褐炭に金属種(Na, K, Ca, MgいおよびFe)を意図的にイオン交換担持してからチャーを調製し、そのチャーのガス化速度論をモデル解析することによって並列反応モデルの一般化、体系化(新学理構築)を試みる。さらに、「進捗状況」に述べた「速度論研究の重大な問題とその解決策、これによるより深い反応機構理解」を報告する論文を公表するための研究強化をはかる。さらに、文字数制限のために「研究実績概要」、「進捗状況」に記載できなかったが、展開研究(当初想定を超えた成果)である「チャー表面における芳香族分解機構解明(論文発表済み)」、「ガス化触媒失活の意図的コントロール(ナノシリカ添加法、論文発表済み)」をさらに展開する。
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