研究課題/領域番号 |
17H01357
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
柏木 正 大阪大学, 工学研究科, 教授 (00161026)
|
研究分担者 |
岩下 英嗣 広島大学, 工学研究科, 教授 (60223393)
胡 長洪 九州大学, 応用力学研究所, 教授 (20274532)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 耐航性能 / 操縦性能 / 流体構造連成解析 / 船体表面圧力分布 / 波浪中抵抗増加 / 実用計算法 |
研究実績の概要 |
1.船体表面での非定常圧力分布の計測水槽実験: 船体表面に貼り付けるタイプのFBG (Fiber Bragg Gratings) 圧力センサの改良版を234個使い,これまでの研究で用いてきたRIOS バルク船模型に働く線形非定常圧力の船体表面分布を求めた。今回は,定常航走による船側波形と静止水線面との間にもFBGセンサを12個貼り付け,非定常圧力の時間平均値と定常航走時の定常圧力との差(圧力増加)の船体表面上分布も求めた。これは波浪中抵抗増加の物理現象を圧力レベルで理解するための貴重なデータであり,世界で初めて実験的に得られたものである。 2.船体表面圧力分布の積分による波浪荷重の算定: 上記の船体表面圧力分布と重量分布を用いると,ある横断面での波浪荷重(剪断力,曲げモーメント)も計算することができ,それは,従来の分割模型を用いた水槽実験に代わる新たな研究方法を提供する。そのことを実証するために,計測された圧力分布から縦曲げモーメントを求め,ランキンパネル法による計算結果と比較検討した。 3.波浪中での船舶耐航性能・操縦性能に関する新しい計算法の開発研究: 操縦運動における波浪影響として最も重要な流体力は,波浪中抵抗増加,定常横力,定常回頭モーメントの精度良い算定であるので,それに関して EUT (Enhanced Unified Theory) による計算結果と水槽実験結果を比較し,その考察や数値計算法の詳細などを中心としたジャーナル論文を執筆した。 4.時間領域グリーン関数を用いた流体・構造連成応答計算法の研究: 高次境界要素法と時間領域グリーン関数法を用いて,前進しながら動揺する弾性浮体に働く流体力,応答を計算する研究を継続して行った。高次境界要素法では,自由表面に非常に近いパネル上でのグリーン関数の積分が必要となるが,その解析的な積分が可能であることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
船体表面での非定常圧力分布の計測実験は,多くの検討事項があったにもかかわらず,計測・解析は全て終了し,学術的に大変価値のある世界初の実験データを得ることができた。入射波の周波数で周期的な変動をする線形非定常成分だけでなく,非定常圧力の時間平均値と定常航走時の定常圧力との差(圧力増加)に関する船体表面分布も得られたことは画期的であり,波浪中抵抗増加に関する現象の物理的な理解や今後行われるであろう数値流体力学(CFD)による数値計算精度の検証などに大いに貢献できると期待される。 また,計測された圧力分布から積分によって波浪荷重を求める研究も画期的であり,これまでの分割模型を使った水槽実験方法に代わる研究方法を提供できる。 波浪中での操縦運動のシミュレーションに関しては,波浪による定常流体流体力の計算はEUTを用いてできるものの,全ての波向き,変化する前進速度に対する計算精度がまだ十分とは言えない。また非線形流体力や非定常流体力のメモリー影響(自由表面影響)をどのように考慮するのかなどは今後の検討課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
FBG圧力センサを使った船体表面での非定常圧力分布の計測実験は,さらにセンサの精度を高め,斜波中での計測を実現させたい。斜波中での圧力計測は,CFDによる数値計算精度の検証だけでなく,斜波中での波浪荷重の算定,流体・構造連成の研究にとっても新たな研究手法を提供できるので,学術的に非常に重要である。 また,波浪中での操縦運動の新たな計算法の開発に関しては,CFDによる数値シミュレーションを行い,非線形流体力や舵・プロペラ周りの流れとそのモデル化への理解を深め,流体力への自由表面影響を考慮した実用計算法の開発・検証を是非とも達成させたい。高次境界要素法による時間領域グリーン関数を用いた計算方法についても,解析的な検討を中心として引き続き研究を行う予定である。
|