研究課題/領域番号 |
17H01360
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
徳永 朋祥 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (70237072)
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研究分担者 |
愛知 正温 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 講師 (40645917)
後藤 宏樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究員 (50781449)
山本 肇 大成建設株式会社技術センター, その他部局等, チームリーダー (10417090)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 地殻工学 / 地下流体挙動 |
研究実績の概要 |
化学的浸透と変形の連成過程に関して、泥岩試料内に濃度差を与えることにより化学的浸透を引き起こし、それに伴う変形を計測する室内実験を行った。歪計測は分布式光ファイバーセンシング(以下DOFS)および電気式歪ゲージの2通りで行った。実験では、泥岩の側面及び上面にシリコンを塗布し、これらの面が周囲の溶液と接しないようにした上で、泥岩を間隙水より10g/L程度濃度の高い溶液中に設置し、1次元的に化学的浸透が発生する条件で実験を行った。実験結果より、10日程度の実験においては、DOFSによって安定した歪計測を行えること、歪ゲージによる計測では時間的に密な計測を行え、実験初期に有意義な情報が得られることがわかった。実験では、稚内層泥岩および小鹿野町層泥岩の2種類の泥岩を用いたが、両者で100με程度の周方向の収縮が計測された。海水の濃度が30g/L程度であることを考えると、沿岸域において半透膜性を持つ地層が100με程度変形することは普遍的である可能性がある。 極めて遅い流れ場での二相流体流動に伴う変形過程の検討に向けては、水で飽和した泥岩試料にガスを圧入する室内実験を実施した。試料内部のCT値分布と試料の周方向の歪分布のデータを取得することにより、試料全体における不均質な二相流体流動と特徴的な収縮歪の観察に成功した。さらに、塩が析出する現象を含め、泥岩中の塩水流動および水蒸気輸送の室内実験を行った。 数値解析技術に関しては、前年度に導出した多孔質弾性体中の二相流動-溶存物質浸透-変形-熱輸送の連成理論に基づき、有限差分法によるシミュレータのコーディングを行った。今年度は、二相流動-溶存物質浸透-熱輸送の連成解析まで完了した。また、数値拡散による誤差評価のために、極座標系において分子拡散と水力学的分散の両方を含んだ移流分散方程式の解析解を導出し、コードの精度検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
泥岩の化学的浸透に関する課題について、室内実験・原位置試験と数値計算の両方を並行的に行っていくことを予定しており、これまでに化学的浸透に関する原位置試験・室内実験を実施してきた。一方、数値計算に関しては、COMSOLを用いた計算を行っているが、原位置試験の結果の再現を試みる過程で濃度挙動がうまく計算されていないことがわかったため、現在その問題の評価と検証を行っている。シミュレータの修正・検証が終わり次第、原位置試験・室内実験の結果についての数値計算を用いた検討を行う予定である。なお、新たに作成しているシミュレータのコーディングと解析解との比較検証については、おおむね予定通りではあるが、変形との連成の部分に関して安定性向上と計算速度高速化のために設計変更を行ったために、完了にはもう少し時間がかかりそうである。
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今後の研究の推進方策 |
化学的浸透と変形の連成過程については、これまでに行った実験結果の解析を中心に行う予定である。解析では、まず、実験結果を再現した計算を行うとともに、現在用いている支配方程式が現象をどの程度説明できているか(移流項の有無・反射係数の濃度依存性の有無など)といったことを検討する予定である。また、感度分析を行うことで実験結果からどの物性値を推定することが可能か、物性値(拡散係数、透水係数など)の違いが泥岩内部での圧力、歪挙動にどのような影響を与えるかといったことも検討する予定である。また、高度地圏利用、特に二酸化炭素回収貯留(以下CCS)における遮蔽層としての泥岩の振る舞いを考える場合、水に溶解した二酸化炭素が化学的浸透流を引き起こすことが考えられることから、異なる溶質における化学的浸透についても検討を進める予定である。 不均質な二相流体流動に伴う変形過程評価に関しては、室内実験結果に基づき、モデル構築を行う予定である。そのために、今年度は、X線CT画像の可視化ツールの整備を引き続き進めることを考えている。加えて、泥岩への窒素ガス圧入実験結果(X線CT画像、光ファイバーにより測定したひずみ)の整理を進め、数値解析による実験の分析方法(適切なモデル選定、計算条件など)について検討する。 数値解析技術に関しては、ここまで開発してきた二相流動-溶存物質浸透-熱輸送の連成解析コードについて、変形も含めた連成を早期に完了させ、塩水輸送・水蒸気輸送実験データ等との比較・検証を行っていく。
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