研究課題/領域番号 |
17H01364
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長谷川 晃 東北大学, 工学研究科, 教授 (80241545)
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研究分担者 |
野上 修平 東北大学, 工学研究科, 准教授 (00431528)
長坂 琢也 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (40311203)
谷川 博康 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 六ヶ所核融合研究所 核融合炉材料研究開発部, グループリーダー(定常) (50354668)
外山 健 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (50510129)
宮澤 健 東北大学, 工学研究科, 助教 (00733726)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 核融合炉 / プラズマ対向機器 / 高融点金属材料 / 原子炉照射材 / 照射後試験 / 微細組織変化 |
研究実績の概要 |
米国のオークリッジ国立研究所で原子炉で照射した試験片の照射後の機械特性評価試験(硬さ測定、引張り試験等)を実施した。原子炉で500℃および800℃で約1.1dpaの照射を行った試料の硬さを室温で測定後、500℃と700℃にて引張り試験を行い、強度と伸びを測定した。破断面の観察から破壊モードも調べた。その結果、応力除去処理を施した試料では、純Wではほとんど伸びを示さず脆性的に破壊したが、カリウム(K)ドープWおよびKドープしたW-3%レニウム(Re)合金では、非照射材とほぼ同じ程度(数%)の伸びが見られ、破壊モードも絞りが見られるなど延性的な挙動を示した。一方で照射前に再結晶させた場合、Kドープ3%Reにおいても弾性範囲内で脆性的な破壊が見られた。応力除去処理により、照射硬化で強度が2倍に増加したにも拘わらず、ほぼ同じ伸びを示すことが明らかとなり、この組織制御により、800℃・1dpaの照射でも延性が保たれるW材料を開発することができた。 これらの照射試料を日本に輸送し、さらに高温で試験を行うべく製作していた、1400℃までの引張り試験が可能な試験機を、東北大工学研究科のRI実験室にて立ち上げた。これを用いて、核融合炉条件下で生成される濃度の20appm のHeを、高エネルギー加速器で注入し、照射後の熱処理による組織発達の挙動と、引張り試験による機械特性への影響を調査した。その結果、この程度のヘリウム量で、通常は応力除去処理状態の微細組織が回復し再結晶してしまう1200℃の温度条件下でも加工による粒内のセル構造がほとんど変わらず、さらに1500℃・1時間という300℃以上高い温度でも若干の硬さの回復はあるものの、応力除去処理による粒内の細かなセル構造が安定に保たれるというこれまでにない新たな知見を得た
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の予算を減額されたことで、所期の計画にあった試験器の完成が2018年度にずれ込んだが、順調に立ち上げることができ、さらに放射化した試料を安全に熱処理および引張り試験ができるようになった。これを用いてHe注入した試験片における照射欠陥を含む試料における高温条件下での組織安定性と引張り試験を行い、 目標とする照射材料の特性評価が可能であることを示した。 原子炉照射材で課題となっていた中性子スペクトルによる核変換元素の生成量の違いに起因する照射誘起偏析の挙動や、それによる照射硬化の挙動についての解析をアトムプローブを用いて行うことができ、はじき出しによる照射欠陥集合体と照射誘起による核変換生成元素であるレニウムやオスミウムの濃化クラスターや析出物の分布を解析可能であることを示し、これらを論文として投稿し、出版した。米国の原子炉における開発材料の照射後試験もこれまで順調に進んでいる。一方、当初想定していなかった低濃度のHe注入による加工組織の安定化作用を新たに見つけることができ、新たな研究の展開が図られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度においては、最も高い温度の1100℃で照射した試料の硬さ測定や引張り試験といった照射後試験を進めるとともに、これらの機械特性を示すメカニズムを透過電子顕微鏡による微細組織観察を行うことで進めていく計画である。またこれらの照射試験片を順次日本に輸送し、完成させた高温引張り試験が可能な試験機を用いて、核融合炉で想定される運転温度である1100℃~1300℃の領域における機械特性や再結晶の挙動を調査する計画である。 2018年度に明らかとなった核変換HeによるW材料の加工組織の安定化作用について、2019年度においてさらに研究を進める。特に低濃度側、つまり運転初期におけるHeの濃度レベルで、Wの照射下および照射後における延性保持に有効とされる応力除去処理で導入される粒内のセル組織がどこまで安定であるのかについて調査を進めていく。
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