研究課題/領域番号 |
17H01367
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上田 良夫 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30193816)
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研究分担者 |
菊池 祐介 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (00433326)
帆足 英二 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (40520698)
仲野 友英 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 那珂核融合研究所 先進プラズマ研究部, 上席研究員(定常) (50354593)
沖田 隆文 大阪大学, 工学研究科, 助教 (50772183)
古河 裕之 公益財団法人レーザー技術総合研究所, 理論・シミュレーションチーム, 研究員 (70222271)
伊庭野 健造 大阪大学, 工学研究科, 助教 (80647470)
Lee HeunTae 大阪大学, 工学研究科, 講師 (90643297)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プラズマ・壁相互作用 / 液体金属 / 強磁場 / 蒸気遮蔽効果 / タングステン |
研究実績の概要 |
強磁場下でのタングステン(W)材料の高熱負荷による溶融・粒子放出挙動、蒸気遮蔽効果の基礎データ取得、およびそのシミュレーションに関する研究課題について、平成29年度(繰り越し分含む)の研究実績は以下の通りである。 1)ディスラプションやELMなどのパルス的な高熱負荷による溶融金属の模擬環境を整備した。W材溶融層挙動と粒子放出(原子、微粒子)・凝集現象の評価を行うための準備として、ミリ秒レーザー照射中の表面溶融層の動的挙動を2方向からの高速カメラ撮影により評価する手法の開発を進めるとともに、放出されるW粒子の挙動を、粒子捕集法とシュリーレン法を用いて観察する手法を開発した。2)5Tのパルスマグネットとそれを内蔵できる真空容器を製作した。3)蒸気遮蔽効果において、エネルギー散逸挙動の理解のために必要となる、低価数Wからの放射分光測定データの取得を、ナノ秒レーザー照射によるWアブレーションプラズマの分光測定により行い、分光試験の性能妥当性を検証した。4)パルス熱負荷に対する表面保護層影響を調べるため、種々の表面保護層(Al,SuS,Cr)を形成したWについて表面損耗抑制効果の試験を行い、比較した。Al(Beの代替)の場合は、保護効果が認められたが、Crではほとんど認められなかった。5)蒸気遮蔽効果をシミュレーションするPICコードを作成し、プラズマガン照射実験の結果と比較することで、妥当性を検証した。また、蒸気遮蔽効果において、放射冷却だけでなく、イオン-中性粒子間衝突によるエネルギー散逸過程が重要となることを示した。また、衝突過程を短時間で正確に求めるための新たな粒子衝突モデルを提唱し、その有効性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の点で当初の想定通り、計画が進んでいるため、上記のように進捗状況を判断した。 〇ミリ秒レーザーを用いたディスラプション様熱負荷による、タングステンの溶融層挙動や放出粒子の測定方法に対して、ステレオ撮影法、パルス外部光同期法、放出粒子の捕捉板による捕捉、およびシュリーレン法、など、今後詳細なデータを得るための基盤技術に見通しがついたこと。〇真空・強磁場(5T、~5ms)中での溶融実験のための装置を製作したこと。〇レーザーアブレーション法を用いて、低価数タングステンからの放射スペクトル測定を行い、可視領域においては、既知のスペクトル線を確認したこと。さらに紫外領域についても測定を始めており、精密なデータ取得のために実験装置に必要な改良項目(迷光の除去、波長分解能の向上)が明らかになったこと。〇蒸気遮蔽効果のシミュレーションコードについて、従来の流体コードベースのものと異なり、タングステン表面近傍でのタングステン原子・イオン挙動をより正確に記述できるPICコードを用いて作成し、ベリリウムの場合のシミュレーションが可能となったこと。また、このコードのために、新たに1回の衝突でもエネルギーが保存する(従来は多数回の衝突後に平均的に保存するモデルを用いていた)モデルを作成しその有用性を検証した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、以下の様に考えている。 (1)強磁場中W溶融挙動の解明:真空中パルス磁場発生装置(~5 T、~5 ms)を用いて、真空中でITERの中心磁場(5.2 T)に匹敵する磁場を発生させ、溶接用Nd/YAGレーザーでWを溶融・蒸発させる実験を行う。Nd/YAGレーザーはスポット径0.6 mmでW試料に照射すると、Wを沸点(~5,800 K)を超える温度まで加熱することが可能であり、これはトカマクプラズマのディスラプションの際に想定されている最も大きな熱負荷に対応する。磁場強度や熱負荷を変化させて、高速カメラによりW溶融層の挙動変化の測定を行う。さらに、液体金属挙動のシミュレーションを行い、液体金属挙動のシミュレーションを行い、W溶融層の挙動を理解する。 (2)低価数Wイオンからの発光分析:WにパルスNd/YAGレーザーを照射してアブレーションプラズマを生成し、可視から紫外域に至る分光スペクトルを調べる。この結果を詳細に分析して、アブレーションプラズマの特性や低価数Wからの放射に関する基礎的知見を得る。 (3)蒸気遮蔽効果のシミュレーション:これまで、Wの液体金属からプラズマ中に放出されたW原子の挙動を正確に評価するためのPICコードを開発しており、軽金属(Be)を用いた場合の蒸気遮蔽効果のシミュレーションができるようになった。今年度は、このコードでWをシミュレーションできるようにするとともに、パルスプラズマを用いた蒸気遮蔽実験の結果をシミュレーションする。また、蒸気遮蔽に及ぼすWの輻射輸送の影響について詳細に評価する。さらに、トカマク装置の周辺プラズマを記述する流体コードとPICコードの統合作業を進める。最終的には、ダイバータへの非定常熱負荷に対する蒸気遮蔽効果の評価を本研究計画の後半 で行う(平成31年度以降)。
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